僕は千代が炎天下にも関わらず
わざわざジャージ上下を着ている理由を
知っている。

千代も僕が知っていることを知っている。


それでも僕らは干渉しあわない。



〝あのアザはどうして・・・〟


訊きたいのをこらえた。


それは野暮のようで
この世界の禁忌を犯す問いのように思えた。



自分の中で色々な感情が暴れるのを
僕は無理矢理鎮める。

自分を律する。


千代の立場を考えると見えてくる。


話を聞いてもらうだけで楽になるなんて
その言葉自体が気休めと偽善に溢れている。


世界は悲劇と偽善に満ちている。




善人になれないのなら
潔く他人になる方がいい。


僕は何も見ていない。
何も知らない。


1番楽で
1番卑怯で
1番冷酷な方法。