これは、肉食少女と呼ばれる少女達が激減する少し前のお話である。
「みんな、覚悟は、出来た?」
藤崎朱里の呼びかけに一斉に頷く子供たち。
彼女達は、みんな親に捨てられた。
もしくは、虐待などで居場所を失った子供達。
そしてここは、そんな子供達を引き取り新しい里親を探す施設。
表向きは、そうなっているが実際は、児童売春や、臓器売買を斡旋する闇施設なのだ。
「計画は、簡単…例の動画を見て、みんなで肉食少女になって大人達を食べる」
しかし、そんな簡単に行くはずなど無い。
それは、この施設で最年長の朱里が1番理解していた。
自分が苦しむだけなら我慢出来る。
しかし、幼い子供達が…親に捨てられ傷ついた子供達を利用する腐った大人達が許せなかったのだ。
計画の実行日は、クリスマスイブ。
その日は、大人達にとって最も大切な日だからだ。
そして、今日がその当日。
子供達に与えられた唯一の型の古いタブレットで例の動画を再生する朱里。
内容は、あまりにも残酷で、本来なら子供達に見せるような内容ではない。
朱里さえも、余りの光景に何度も目を塞ぎそうになるのを必死に堪えるのに苦労した。
しかし不自然な事に、子供達は、誰一人として、泣きださなかったのだ。
「…怖くないの?」
心配そうに訊ねる朱里の声は、今にも泣きそうになっている。
朱里の問いかけに、1人の少年が答えた。
「…怖くない…戦争に比べたら所詮こんなの対した事ないな」
えっ?
戦争?
「戦争とかうちら見たこと無いじゃん。何言ってるの?」
朱里の言葉に、意味が分からない。
と言うような表情を見せる少年。
しかし、すぐにいつもの顔に戻り突然泣き出した。
「怖いよー」
はっ?さっきまで平気だったじゃん?
その反応は、他の少年達も同じだった。
しかしもっと驚いたのは、女の子達の反応だ。
動画を見るまでは、お人形やぬいぐるみなどを大事に抱えてた少女達が、いきなり人形や、ぬいぐるみを壊し始めたのだ。
「ちょっと、何してるのー?」
「…殺す…食べるために…」
何言ってるの?
ほんとどうなっちゃったの?
私も、なんか頭ががんがんする…
そんな、最悪のタイミングで施設長の奥さんが入ってきた。
「朱里、早く来なさい」
施設長の奥さんの声を聞いた瞬間に、頭痛が最高潮に達し、目の前が赤く染まり頭の中をどうしようもない、恐怖が支配し始めた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
怖い怖い怖い怖い怖い怖い
殺られる前に殺らないと…
そう思った瞬間、朱里は、施設長の奥さんの顔を殴っていた。
ゴキュ
ボキッ
凄まじい音と共に奥さん鼻の骨は、折れそして、吹き飛ばされた奥さんは、頭を激しく扉に打ちつけ、その場に崩れ落ちた。
「なに…するの?」
怒りと、恐怖の入り交じった声で怒鳴りつけるその声に、朱里は、さらなる恐怖を覚えた。
しかし、恐怖を感じているのは、朱里だけでは、無かった。
「…ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
突然泣きながら謝る子供達。
その姿を見ていると、朱里の心の奥底からふつふつと、憎しみがマグマのように立ち込めてくる。
「…雪ちゃん…先生に兎のぬいぐるみを縫ってほしいってお願いした時何をされた?」
「えっ…」
突然そんな事を訊ねてくる朱里に戸惑いっつも雪は、答える。
「兎さんの耳をちぎられたよ」
悲しそうな表情を浮かべながら答える雪を優しく抱きしめ、耳元でささやいた。
「なら、同じ痛みを与えないとね」
朱里に、そうささやかれた雪は、机にあったカッターを持って奥さんに近ずいていく。
「ちょっ…冗談よね?」
震える声で話しかける奥さんの
喉元を朱里は、蹴りつける。
「がはぁっ…げほげほ」
「今よ」
少女は、苦しそうに喉を押させる奥さんの横に立つと、震える手で耳を掴んだ。
辞めて。
と、奥さんは、目で訴えかけるのだが、少女は、おかまいなしに、無表情のまま奥さんの耳に、カッターの刃を食い込ませていく。
カッターの刃が食い込む毎に奥さんは、必死に抵抗しようと暴れようとするのだがその度に、朱里に腹部を踏みつけられ
、声にもならないようなうめき声をあげている。
「がっ…ぐっ…あっ」
奥さんの苦しむ顔を眺めていると、朱里は、悲しい気持ちになった。
自分をさんざん苦しめてきた女がこんなにも弱い存在だったなんて…
こんなにも、簡単に人は、死ぬのか…
そう思うと朱里は、さらに悲しい気持ちになった。
そして朱里は、昔母に言われた言葉を思い出した。
「命は、大事にしなさい。簡単に他の生き物の命を奪ったりしては、いけないんですよ」
そうですねお母さん…
朱里が母との思い出に感傷していると少女が、奥さんの耳を美味しそうにかじりついていた。
その様子を見ていると朱里は、何とも言えない嫌な気持ちになった。
「何をしているの」
バシッ
気づいた時には、少女を引っ張っている自分に気づき、自分の愚かさに恐怖をとおぞましさを感じた。
しかし同時に、他人を殴る悦びを感じているのだ。
「ごめんなさい」
少女は、泣きながら、謝っている。
私は、なんて事を…
「私こそごめんなさい」
ふと、視線を感じた朱里は、奥さんの方に目をやると奥さんは、自分と同じ事をしている朱里の事を憐れむような目で眺めてきている。
殺したい…でもダメ。
簡単に殺したらダメだもん…
その時朱里の中で何かが弾けたような感覚を覚え朱里は、その場で倒れてしまう。
夢の中で朱里は、1人の男の人と対面していた。
彼は、自らの事を悪魔ベリアルと名乗り、この世界を一緒に支配しよう。
と提案してきた。
たかが夢の中の話。
くだらない。
そうは、思ったが、少し面白いとも思った。
「ええ、いいわよ」
そこで朱里は、目を覚ました。
周りには、心配そうに朱里を見つめる子供達。
大事な仲間達のはずなのに、何故か彼女には、美味しそうな餌にしか見えないのだ。
「朱里お姉ちゃん大丈夫?」
1人の少女が朱里の顔を心配そうに見つめてくる。
いつもの朱里ならそんな少女を元気づけようと、無理にでも笑顔を作っただろう。
しかし、何故かそんな気分には、なれなかった。
「うるさい…」
彼女は、そう呟いた後に後悔した。
何故そんな事を言ったのかと。
「ごめんなさい…」
目に涙を浮かべ悲しそうな表情を浮かべる少女。
他の子供達も、驚いたような怒ったような表情で朱里を見つめてくる。
「ごめんな…」
そこまで言いかけた時に、先程まで倒れていた奥さんが居ない事に気がついた。
「ねえ?あの女は?」
「えっ?知らないよ?」
「そんな事より、さっきの態度は、酷いと思う」
「朱里お姉ちゃんの事見損なった」
口々に朱里の事を非難する子供達。
当然だろう。
しかし、朱里は、そんな子供達の事が許せなくなっていた。
「あんた達がちゃんと見てないからにげられたじゃない」
激しく怒鳴りつけると近くにあった鉄の棒を握り、近くに居た少女の頭を殴りつけた。
グシャ…ボキッ…
頭の潰れる音の後に、頭蓋骨の砕ける鈍い音が辺りに響き渡った。
あまりも非日常的な出来事に子供達は、直ぐに現実を受け入れられなかった。
子供達の凍りついた視線を浴びながらながら再び朱里は、先程の少女頭に鉄の棒を振り下ろす。
グチャ…ビシャ…
血の混じった脳みそが辺りに飛び散り子供達の顔には、飛散した血しぶきがかかった。
その生温かい感触にじわじわとこれは、現実なんだと、理性が追いつき子供達の顔に、冷や汗と涙が溢れだしてくる。
なんて快感なんだ。
朱里は、そう感じていた。
人間を殺す。
いや、殺すなんて生易しい物では、ない。
人間を壊す事に彼女は、至福を感じていたのだ。
もっと壊したい。
心も、体も全部。
もはやそれは、朱里では、ない何者かになっていた。
「朱里お姉ちゃん…辞めてよ…」
彼女を信じ、声をかける少年。
しかし、その言葉は、彼女に届くことは、なかった。
アリを踏み潰すのに可哀想。
と、感じて潰す人など居ないだろう。
彼女にとって、目の前の子供達は、アリなのだ。
踏み潰すしてもいい存在。
当然子供達は、必死に逃げ回った。
しかし、所詮は、子供の足。
逃げ切れる訳もなく皆朱里に殺された。
ある物は、全身の骨を折られ。
ある物は、手脚の関節を粉々に砕かれ、放置されてのショック死。
そしてある物は、顔を思いっきり踏み潰されて死亡…
子供が、虫をおもちゃにして殺すように朱里は、子供をおもちゃにして殺すのを楽しんでいた。
13人居た子供達は、約1人を残して全て死んでしまった。
「あと…1人…」
朱里は、呟きながら最後の1人の少女を探した。
最後生き残りの少女アリスは、クローゼットの中で震えていた。
施設の子供達の中で最年少の彼女は、たまたまかくれんぼしている途中に眠ってしまったため、朱里に見つからずに済んだのだ。
しかし悪魔に取り憑かれた朱里からは、逃げ切ることは、できなかった。
バタン
クローゼットの中に、光が差し込み邪悪な笑顔を浮かべた朱里が血が滴る鉄の棒を持って立っていた。
アリスは、死を覚悟した。
だけど死にたくないと心の中で強く願ってもいた。
「私のために、死んでね♡」
今までに見せた事のない程に綺麗な笑顔を見せ朱里は、鉄の棒を振り下ろす。
アリスは、鉄の棒が当たる直前に朱里お姉ちゃんなんて死んじゃえ。
そう強く願いながら目をつぶった。
しかし、不思議な事にいくらまっても鉄の棒は、落ちてこない。
恐る恐るアリスが目を開けると、目の前には、真っ黒に焼け焦げた何かと、赤い髪をした綺麗な男の人が膝まづいて座っている。
「あなた誰?」
震える声でアリスが訊ねると、謎の男は、「私は、ベリアル。貴方様の忠実な下僕です」
と、口にした。
幼いアリスには、何の事か理解できなかった。
困ったような表情を浮かべているとベリアルは、「何も覚えておられないのですか?」
と聞いてきた。
アリスが、コクリと小さく頷くと、ベリアルは、とても紳士的な笑顔を見せ、何が起きたのか。
そして、アリスが何者なのかを説明してくれた。
話を全て聴き終わったアリスは、余りの事にとても信じられない気持ちでいっぱいになった。
しかし、ベリアルと言う名のとても綺麗な悪魔を従えられる事に彼女は、幼いながらに優越感を感じていた。
「ベリアル君、私世界を支配するよ」
それは、純粋にベリアルを喜ばせたいと言う気持ちで言った言葉だった。
しかし、その言葉が肉食少女と人類の戦争に発展しようとは、アリスは、考えてもいなかったのだ。