肉食少女〜人喰い編〜

「ねー、知ってる?肉食の噂?」

「肉食少女?なになに?」

「人殺しが趣味の人が証拠隠滅のために、人間を食べてるらしいよ?」

「えっ?やばww」

「ヤバいよね?ww」

「ほら、この前ホームレス大量失踪事件のニュースしてたじゃない?あれって肉食少女の仕業らしいよ?」

「まじ?wそれは、ウケるwww」


授業中にも関わらず私語を楽しむ女子生徒の達に注意をしない教師。

教師がヘタレなのをいい事に教室で堂々といじめをする男子生徒。

こんなクズ共は、早く死ね。

さきは、そんな事を考えながらノートをとっていた。

ブーブー

スマホのバイブが鳴り画面を確認するさき。

そんなさきの事を教師は、睨みつけてきている。

(うざっ…まじ早く死んで)

それが、さきの正直な感想だった。

パリーン

突然窓ガラスが割れ、生徒達は、窓の方に視線を向けた。

そこには、一人のセーラー服の少女が…

(えっ?…なんであの子血塗れなの?)

そう思った次の瞬間教師の首が、頭からズレ落ちそして、同時に首から大量の血が噴水の様に飛び出してくる。

しかし、何故だろう?

恐怖と言うより、なんとも言えない開放感に包まれたのだ。

血を吹き出しながら倒れる教師。

そしてそれを見て、逃げ出そうとする生徒達が脳みそをぶちまけながらその場で倒れていく。

まるで、恐怖に反応して爆発する爆弾を頭に埋め込まれたように…

生徒達が、みんな死んだ事を確認した、少女は、サバイバルナイフで教師の腹を切り裂いた…

教師の体は、まだ生きていたのか刺された瞬間、ビクッとなり、ピクピク痙攣をし始める。

その様子を嬉しそうに少女は、しばらく眺めていた。

数十秒後痙攣が収まると一気に腹を裂き、内蔵無理やり引きずり出すと一つ一つ丁寧にさばいて行く。

その様子をさきは、じっと見つめていた。

そして、最後に、心臓を引きちぎると彼女は、心臓をブチブチと音をたてながら引きちぎり、口に入れた心臓の破片をくちゃくちゃと、音をたてながら少しづつ食べていく…

彼女が教師の、心臓を食べ終わる頃にパトカーが到着した。

異変に気づいた教師が通報していたんだろう…

目障りな警察だ…

さきがそう思った瞬間に、突然どこかで爆発が起きた。

しかし、さきにとってそんな事どうでも良かった。

次は、何をしてくれるのだろう?

その事で頭がいっぱいだった。

しかし、次は、無かった。

扉が開き、武装した警察官が入ってくる。

あー、少女が逮捕されるのか…

彼女は、そう思っていた。

しかし、逮捕されたのは、さきだった。

「安城 咲お前を殺人容疑で逮捕する」

「…」


正直意味が分からなかった。


しかし、取り調べ室でさきは、全てを理解した。

彼女は、重度の精神疾患があったのだ。

全ては、彼女の妄想だった。

教師も生徒達も彼女が殺したのだ。

肉食少女など最初から居なかった。

そう、彼女が教師の心臓を食べるまでは…
第2話

「はじめまして。私は、キサラ。あんたの裏の人格よ」

「キサラ?裏の人格?意味がわかんないんだけど…」

「…あんたは、私の事は、知らないようね。でも私は、あ?たの全てを知ってる。ずっとあんたの中から見てたから」

「…」




「お姉ちゃん…お姉ちゃん…起きて」

さきは、妹の声で目が覚めた。

「ここは?」

「はぁ?何言ってるの?家に決まってるじゃん」

家?そんなはずは…

取り調べの後、重い精神疾患と診断された私は、裁判で無罪になり、病院に拘束されてたはずなのに…

もしかして私は、夢でも見てるの?

それを確かめるために、自分のほっぺをひねってみる。

「いてて…」

姉の行動を不思議そうに、眺め妹は、足早に、部屋から出て行った。

「お姉ちゃんが馬鹿になったー」

と余計な一言と共に…

あの事件こそ夢?

しかし夢にしては、あまりにもリアル…

じゃあここは、異世界?

「頭大丈夫?」

カチーン。

「ちょっと、あんたさっきからケンカ売ってるの?って…えっ?」

声のする方を振り返ると、先程夢に出てきた自分に瓜二つな美少女が立っている。

「あなた確か…」

「そうよ。あんたの裏の人格」

先程夢に出てきた、さきの裏の人格を名乗る美少女。

キサラが目の前に立っている。

「えっ?何で?なんで現実に居るの?」

混乱するさきの問いかけにキサラは、冷静に答えた。

「私は、あんたの裏の人格で同時にあなたの生霊でもあるの」

「えっ?じゃあもしかして私が家に居るのもあなたのおかげ?」

「そうね…」

何故か悲しげに答えるキサラ。

「なんかわかんないけどありが…」

そこまで言いかけた時に扉が開き、妹が飛び込んで来た。

「お姉ちゃん大変。大人の肉食少女が発生したらしいよ」

えっ?肉食少女って何?てか、キサラのこと見えてないの?

「へー、大変ね」

適当に返事を返す私を妹は、睨みつけてきた。


これは、何かあるな…


そう思い、キサラの方を見るとキサラは、気まずそうに目を逸らしている。

「えっ?何?」

「何?じゃ無いよ。お姉ちゃんが肉食少女達を退治するって条件で病院から出たんでしょ?」

いやいやいや…

心臓を食べるような方達を倒す?

ありえないでしょ?

「…キーサーラーちゃーん」

さきは、キサラを睨みつけた。

しかし妹から見れば独り言を言ってるようにしか見えない。

「…お姉ちゃん…幽霊にでも話しかけてるの?」

不安そうに話しかけてくる妹…

その通りだよ…

言えないけど…

「おまじないだよ」

そう言って私は、部屋を出た。

肉食少女なんてどうやって退治すればいいんだー。

てか、肉食少女ってなんだよ?

この時の私は、自分が最初の肉食少女だと気づいてなかった。

そして、この世界に肉食少女が生まれた理由さえも…
さきの起こした大量殺人事件のすぐ後から突然凶暴になり、人に危害を加える少女達が多発するようになった。

それは、未知のウイルスによるものか…

はたまた異星人に、寄生された成れの果てなのか…

それは、誰にも分からない…

しかしある事件以降肉食少女による事件は、激減し、数ヵ月後には、肉食少女による事件など無くなったのだ。


さきの事件から1年が経ち、さきは、高校を卒業し警察官になっていた。

さきの務める部署は、肉食少女対策係。

かつては、華の部署と言われたそこも今じゃ、さきしか居ない寂しい部署となっていた。

肉食少女が再び現れた時に、戦うためさきは、毎日訓練を積んでいる。

いつものように朝8時には、出勤したさきは、筋トレのために、トレーニング室に向かう途中に不思議な少女とすれ違った。

彼女は、全身を隠すように黒いフードを被っており、不思議なオーラを漂わせていたのだ。

「誰だろ?うちの部署に入ってくれたらいいんだけどね?」

いつものようにさきは、キサラに話しかけるがキサラは、何か思うところがあるのか上の空で聞いていない。

「どうしたの?あの子知り合い?」

さきが尋ねるとキサラは、何事もなかったような笑顔を見せ「ううん、綺麗な人だなーと思って見とれてたの」

「確かに、綺麗だよね。なんか不思議な感じがしたけど」

それは、どこか懐かしいような、そんな感じだった。

しかしすぐに彼女と、再開する事なる。


一通りの筋トレと射撃訓練を終えたさきが自分の部署に戻ると部屋の中に警視総監と先程の少女が座っている。

部屋を間違えたと思い、慌てて部屋から退出しようとするさきを警視総監が慌てて呼び止めてくる。

「待ちなさい。君に話がある」

警視総監が直々に話って何だろう…

恐る恐る警視総監の前に座るさき。

警視総監は、チラッと少女の方を見ると言いにくそうに口を開いた。

「実は、このウリエルさんは、天使なのだ」

「。。。。。」

空気が凍りついたのを感じたのか警視総監は、咳払いをして話を続けた。

「私も最初聞いた時は、君と同じ反応だったよ。しかし…」

ピリリリリリリリ

そこまで話した時に、警視総監のスマホが突然鳴り響いた。

「誰だこんな時に…」

怪訝そうにスマホを取り出した内容を確認した警視総監の顔がみるみる凍りついていき、ウリエルと呼ばれていた少女に頭を深く下げると慌てて部屋からとびだしていくのだった。

一体何が書かれていたんだ…

「さて、邪魔者は、居なくなったし本題に入りましょう。ルシファー」

ルシファー?何のことだ?

キョロキョロと当たりを見回すさきに苛立ったのか、ウリエルは、机を激しく叩きつけた。

バンッ

「ルシファー、ふざけてる場合じゃないわよ」

「あっ…あの…人違いじゃ…」

恐る恐るさきが答えるとウリエルは、急に頭を抱え座り込んだ。

「あの…大丈夫ですか?」

心配そうに訊ねるさき。

「はっ?大丈夫なわけないでしょ…あなたが堕天しても、意識を保てた訳が分かったわ…」

それだけ言うとウリエルは、1枚の鏡をさきの前に差し出した。

鏡に映りこんだ姿は、何故か自分では、無くどこか見覚えのある美しい美女だった。

しかしその姿は、人間では、なく天使と悪魔を足したような姿をしている。

「これって…」

「そうよ、それがあなたの真の姿。あなたは、大天使ルシファーの転生者よ」

何を言ってるの?

さきがそう言おうとした瞬間に見覚えの無いはずの光景が頭に浮かび上がってくる。

そこは、とても綺麗な庭園で沢山の天使達が仕事をしている。

そして、知らないはずなのに何故か懐かしい…

「少しは、思い出した?あなたは、何故か記憶と魂が分離してるようね。ちゃんと全てを思い出してきなさい」

ウリエルにそう言われた瞬間に体が鏡の中に吸い込まれた。

えっ?何?

そこは、綺麗な花畑。

そしてそこには、先程見たルシファーと呼ばれていた女性にそっくりな少女が…

「あなたもしかしてルシファー?」

「そうだよ?」

少女は、嬉しそうに答えると花畑の中を駆け抜けていく。

数メートル進んだところでルシファーは、振り返り手を振ってきている。

さきも、ルシファーに手を振り返し、近づこうとした瞬間に、どこからか現れた黒い狼がルシファーに襲いかかろうと飛びかかった。

「危ない」

咄嗟に叫びルシファーに、駆け寄ろうとした瞬間。

狼が巨大な落雷に撃たれたのだ。

雷に撃たれた狼は、丸焦げになりこんがりと美味しそうな香りを漂わせている。

「…ルシファー怪我は、無い?」

心配そうに駆け寄るさきの顔を驚いた表情で、まじまじと見つめ「私の事怖くないの?」と、訊ねてきた。

「えっ?何が?それより怪我とかしてない?」

心配そうに問いかけるさきに、ルシファーは、嬉しそうに抱きついてくる。

その瞬間さきは、懐かしさを覚えた。

自分も、こうやって誰かに抱きしめてもらった気がする。

「よしよし、怖かったね。もう大丈夫だよ」

さきが頭を撫でてあげるとルシファーは、嬉しそうに笑いかけてくる。

しかし狼は、死んでは、なかった。

いや狼は、偽りの姿だったのだ。

狼の体を食い破って出てきた何かが、さきに襲いかかってくる。

そこで場面が突然変わり、ルシファーは、仲間の天使達と言い争っている光景がさきの目の前に広がっていた。

しかし、2人には、さきの姿が見えていないのか、黙々と話を続けている。

「ガブリエル。なぜ信じてくれない?このままだと天界は、おろか人間界すらも危ういんだぞ?」

「流石にありえないでしょ?天使を人間に転生させる秘術を神々が使おうとしているなんて?何のメリットがあるのよ?」

「分からない…だけど予知夢を見た。私の予知夢が外れた事なんてある?」

ルシファーの予知夢の的中率は、他の天使達よりもずば抜けて高く、その的中率は、90%とも言われていた。

「確かにそうだけど…そんな事をしたら天界のバランスが崩れるだけじゃない。天界も、人間界も、崩壊する事になるのよ?そんな事神々がする訳ないじゃない?」

「確かにそうだけど…えっ?人間界も?どういう事?」

「はあ?そんな事も知らないの?天使が人間に転生した場合人間の持つ悪意に触れて堕天してしまうのよ」

「そんな事が…」

そこで、再び場面が変わり今度は、戦果の真っ只中に立っている。

「神よ、なぜ私達を裏切った?」

「…答える義理は、無い。死ね」

神は、それだけ口にすると、巨大な落雷をルシファーに落とした。

ドゴーン

激しい音と、砂煙が辺りを包み込んだ。

「おのれ神めー」

さきは、無意識のうちに咄嗟にそう叫んでいた。

なぜ叫んだのか分からない。

ただ、神への恨みがふつふつと湧き上がってきたのだ。

しかしルシファーは、生きていた。

服は、ぼろぼろで体には、無数の傷が痛々しく刻まれている。

しかし、生きていたのだ。

「はぁはぁ…この命の炎が燃え尽きようともお前達の計画は、必ず止めてみせる」

「はぁーー」

ルシファーは、最後の力を振り絞り神に向かって電撃を放つ。

その電撃を防ごうと、神も雷の壁を作るがその壁を粉砕して電撃は、神の心臓を貫いた。

「ぐふっ…おのれルシファー…だが遅かったな…我らの秘術は、完成してるんだよ…」

捨て台詞も思えるセリフを吐いて、神は、燃え尽きる。

「はぁはぁはぁはぁ…やっ…」

バタン

そこでルシファーも息絶えさきは、現実に引き戻されることになる。

「…思い出した…私は、ルシファーだ。そして、キサラ…ううんガブリエル。今まで、私を守ってくれてありがとう」

全てを思い出したさき(ルシファー)をガブリエル(キサラ)は、優しく抱きしめてくれた。

「あの時、あなたの言うことを信じてあげれなくてごめんなさい…」

「いいのよ。それより戦いは、まだ終わってなかった。二人とも力を貸して」

「勿論よ」
と、ウリエル。

「当たり前でしょ?」

と、ガブリエルが答えた。

「ところであんた大丈夫?記憶を取り戻したけど肉食少女になったリしないでしょうね?」

突然席を立ち、不安そうに尋ねてくるウリエル。

その問いかけに、ガブリエルが代わりに答えた。

「大丈夫よ、私が彼女の中の悪意を抑え込んでるから」

「そう言う事ね…」

その答えを聞いたガブリエルは、安堵の表情を浮かべ席に着くのだった。

「あなたこそ大丈夫なの?肉食少女になったりしないでしょうね?」

「…ウガー」

突然ガブリエルに、襲いかかろうとするウリエル。

慌ててその場から離れようとするガブリエルを見てウリエルは、笑いだした。

「ぷっ…あはははは」

「えっ?…騙したの?」

唖然とするガブリエル。

「ごめんごめん。しかし、簡単に騙されるとかほんと昔から変わってないな、ルシファーは、気づいてたぞ」

ウリエルの言葉に恥ずかしそうにさきの方を見るとさきは、当然だろ?

と言うような表情を浮かべ、ガブリエルを眺めている。

「ほっ…本当は、私も気づいてたいたぞ」

と、胸を張ってみせるガブリエル。

そんなガブリエルを無視して、ウリエルは、本題の話を話始めた。

「最近堕天使…いや、肉食少女と呼ぶべきかな?」

「呼び方は、なんでもいいよ。それより肉食少女がどうしたの?」

珍しくシリアスな表情で訊ねるさき。

「そうね、肉食少女による事件が最近減ってるでしょ?あれは、サタンの転生者によるものだと言うことが分かったのよ」

「サタンですって?」

サタンは、かつてルシファーが倒した魔界の王の事である。

「ええ。だけど一体誰に転生したかまで分かってないの…噂では、少女に転生したと言われている」

「つまりサンタが肉食少女達を戦力として従えていってるってことかしら?」

やっと話に入ってきたガブリエルは、何故かサンタのコスプレをしている。

「…ガブリエル…あなたなぜサンタのコスプレを?」

怒りのこもった声でウリエルは、問いただした。

「えっ?だってサンタが肉食少女を従えてるんでしょ?」

「サンタじゃないわよ、サタンよ。ちゃんと話を聞いときなさいよ」

「ごめんなさい…」

「あはは懐かしいな、この感じ」



天使達が談笑している頃総理官邸では…


「総理大臣さんこんにちは。今日から日本の支配者になるアリスだよー」

そう言って手を差し伸べるアリス。

しかしすでに総理大臣は、虫の息でアリスの手を握り返す事など出来ないほどに弱っている。

「ベリアル君やりすぎだよ。アリス、この人とお話したかったのにー」

と、ほっぺを膨らませて文句を告げるアリス。

その様子にベリアルは、申し訳無さそうにその場で跪き、アリスの手にキスをし、口を開いた。

「申し訳ございません。アリス様、何分力加減というものを分かっておりませんでした。今すぐこの男に憑依して蘇生させて見せます」

そう告げるとすぐにベリアルは、総理大臣に憑依した。

悪魔に憑依されると人間は、魂の半分を奪われるがその反面人間離れした身体能力を手にする事が出来るのだ。

藤崎朱里が大量殺人を軽くやってのけれたのも、一重に悪魔の力があったからである。

ベリアルに憑依された総理大臣は、みるみるうちに傷が塞がり先程まで虫の息だったと思えない程に復活した。

「総理、私は、アリスだよ。私の言うことを聞いてくれたら生かしといてあげる」

一見すれば、幼い少女。しかし、その実態は、恐ろしい悪魔を従える化け物。

もはや、総理に拒否権など存在しなかった。

「わっ…分かりました」

2018年12月2日この日を持って人類は、肉食少女達の餌になる事が確定した。

しかし、神々の真の狙いは、肉食少女を作る事でも人間世界の破滅でもなかったのだ…

これは、肉食少女と呼ばれる少女達が激減する少し前のお話である。


「みんな、覚悟は、出来た?」

藤崎朱里の呼びかけに一斉に頷く子供たち。

彼女達は、みんな親に捨てられた。

もしくは、虐待などで居場所を失った子供達。

そしてここは、そんな子供達を引き取り新しい里親を探す施設。

表向きは、そうなっているが実際は、児童売春や、臓器売買を斡旋する闇施設なのだ。

「計画は、簡単…例の動画を見て、みんなで肉食少女になって大人達を食べる」

しかし、そんな簡単に行くはずなど無い。

それは、この施設で最年長の朱里が1番理解していた。

自分が苦しむだけなら我慢出来る。

しかし、幼い子供達が…親に捨てられ傷ついた子供達を利用する腐った大人達が許せなかったのだ。

計画の実行日は、クリスマスイブ。

その日は、大人達にとって最も大切な日だからだ。

そして、今日がその当日。

子供達に与えられた唯一の型の古いタブレットで例の動画を再生する朱里。

内容は、あまりにも残酷で、本来なら子供達に見せるような内容ではない。

朱里さえも、余りの光景に何度も目を塞ぎそうになるのを必死に堪えるのに苦労した。

しかし不自然な事に、子供達は、誰一人として、泣きださなかったのだ。

「…怖くないの?」

心配そうに訊ねる朱里の声は、今にも泣きそうになっている。

朱里の問いかけに、1人の少年が答えた。

「…怖くない…戦争に比べたら所詮こんなの対した事ないな」

えっ?

戦争?

「戦争とかうちら見たこと無いじゃん。何言ってるの?」

朱里の言葉に、意味が分からない。

と言うような表情を見せる少年。

しかし、すぐにいつもの顔に戻り突然泣き出した。

「怖いよー」

はっ?さっきまで平気だったじゃん?

その反応は、他の少年達も同じだった。

しかしもっと驚いたのは、女の子達の反応だ。

動画を見るまでは、お人形やぬいぐるみなどを大事に抱えてた少女達が、いきなり人形や、ぬいぐるみを壊し始めたのだ。

「ちょっと、何してるのー?」

「…殺す…食べるために…」

何言ってるの?

ほんとどうなっちゃったの?

私も、なんか頭ががんがんする…

そんな、最悪のタイミングで施設長の奥さんが入ってきた。

「朱里、早く来なさい」

施設長の奥さんの声を聞いた瞬間に、頭痛が最高潮に達し、目の前が赤く染まり頭の中をどうしようもない、恐怖が支配し始めた。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

怖い怖い怖い怖い怖い怖い

殺られる前に殺らないと…

そう思った瞬間、朱里は、施設長の奥さんの顔を殴っていた。

ゴキュ

ボキッ

凄まじい音と共に奥さん鼻の骨は、折れそして、吹き飛ばされた奥さんは、頭を激しく扉に打ちつけ、その場に崩れ落ちた。

「なに…するの?」

怒りと、恐怖の入り交じった声で怒鳴りつけるその声に、朱里は、さらなる恐怖を覚えた。

しかし、恐怖を感じているのは、朱里だけでは、無かった。

「…ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

突然泣きながら謝る子供達。

その姿を見ていると、朱里の心の奥底からふつふつと、憎しみがマグマのように立ち込めてくる。

「…雪ちゃん…先生に兎のぬいぐるみを縫ってほしいってお願いした時何をされた?」

「えっ…」

突然そんな事を訊ねてくる朱里に戸惑いっつも雪は、答える。

「兎さんの耳をちぎられたよ」

悲しそうな表情を浮かべながら答える雪を優しく抱きしめ、耳元でささやいた。

「なら、同じ痛みを与えないとね」

朱里に、そうささやかれた雪は、机にあったカッターを持って奥さんに近ずいていく。

「ちょっ…冗談よね?」

震える声で話しかける奥さんの
喉元を朱里は、蹴りつける。

「がはぁっ…げほげほ」

「今よ」

少女は、苦しそうに喉を押させる奥さんの横に立つと、震える手で耳を掴んだ。

辞めて。

と、奥さんは、目で訴えかけるのだが、少女は、おかまいなしに、無表情のまま奥さんの耳に、カッターの刃を食い込ませていく。

カッターの刃が食い込む毎に奥さんは、必死に抵抗しようと暴れようとするのだがその度に、朱里に腹部を踏みつけられ
、声にもならないようなうめき声をあげている。

「がっ…ぐっ…あっ」

奥さんの苦しむ顔を眺めていると、朱里は、悲しい気持ちになった。

自分をさんざん苦しめてきた女がこんなにも弱い存在だったなんて…

こんなにも、簡単に人は、死ぬのか…

そう思うと朱里は、さらに悲しい気持ちになった。

そして朱里は、昔母に言われた言葉を思い出した。

「命は、大事にしなさい。簡単に他の生き物の命を奪ったりしては、いけないんですよ」

そうですねお母さん…

朱里が母との思い出に感傷していると少女が、奥さんの耳を美味しそうにかじりついていた。

その様子を見ていると朱里は、何とも言えない嫌な気持ちになった。

「何をしているの」

バシッ

気づいた時には、少女を引っ張っている自分に気づき、自分の愚かさに恐怖をとおぞましさを感じた。

しかし同時に、他人を殴る悦びを感じているのだ。

「ごめんなさい」

少女は、泣きながら、謝っている。

私は、なんて事を…

「私こそごめんなさい」

ふと、視線を感じた朱里は、奥さんの方に目をやると奥さんは、自分と同じ事をしている朱里の事を憐れむような目で眺めてきている。

殺したい…でもダメ。

簡単に殺したらダメだもん…

その時朱里の中で何かが弾けたような感覚を覚え朱里は、その場で倒れてしまう。

夢の中で朱里は、1人の男の人と対面していた。

彼は、自らの事を悪魔ベリアルと名乗り、この世界を一緒に支配しよう。

と提案してきた。

たかが夢の中の話。

くだらない。

そうは、思ったが、少し面白いとも思った。

「ええ、いいわよ」

そこで朱里は、目を覚ました。

周りには、心配そうに朱里を見つめる子供達。

大事な仲間達のはずなのに、何故か彼女には、美味しそうな餌にしか見えないのだ。

「朱里お姉ちゃん大丈夫?」

1人の少女が朱里の顔を心配そうに見つめてくる。

いつもの朱里ならそんな少女を元気づけようと、無理にでも笑顔を作っただろう。

しかし、何故かそんな気分には、なれなかった。

「うるさい…」

彼女は、そう呟いた後に後悔した。

何故そんな事を言ったのかと。

「ごめんなさい…」

目に涙を浮かべ悲しそうな表情を浮かべる少女。

他の子供達も、驚いたような怒ったような表情で朱里を見つめてくる。

「ごめんな…」

そこまで言いかけた時に、先程まで倒れていた奥さんが居ない事に気がついた。

「ねえ?あの女は?」

「えっ?知らないよ?」

「そんな事より、さっきの態度は、酷いと思う」

「朱里お姉ちゃんの事見損なった」

口々に朱里の事を非難する子供達。

当然だろう。

しかし、朱里は、そんな子供達の事が許せなくなっていた。

「あんた達がちゃんと見てないからにげられたじゃない」

激しく怒鳴りつけると近くにあった鉄の棒を握り、近くに居た少女の頭を殴りつけた。

グシャ…ボキッ…

頭の潰れる音の後に、頭蓋骨の砕ける鈍い音が辺りに響き渡った。

あまりも非日常的な出来事に子供達は、直ぐに現実を受け入れられなかった。

子供達の凍りついた視線を浴びながらながら再び朱里は、先程の少女頭に鉄の棒を振り下ろす。

グチャ…ビシャ…

血の混じった脳みそが辺りに飛び散り子供達の顔には、飛散した血しぶきがかかった。

その生温かい感触にじわじわとこれは、現実なんだと、理性が追いつき子供達の顔に、冷や汗と涙が溢れだしてくる。

なんて快感なんだ。

朱里は、そう感じていた。

人間を殺す。

いや、殺すなんて生易しい物では、ない。

人間を壊す事に彼女は、至福を感じていたのだ。

もっと壊したい。

心も、体も全部。

もはやそれは、朱里では、ない何者かになっていた。

「朱里お姉ちゃん…辞めてよ…」

彼女を信じ、声をかける少年。

しかし、その言葉は、彼女に届くことは、なかった。

アリを踏み潰すのに可哀想。

と、感じて潰す人など居ないだろう。

彼女にとって、目の前の子供達は、アリなのだ。

踏み潰すしてもいい存在。

当然子供達は、必死に逃げ回った。

しかし、所詮は、子供の足。

逃げ切れる訳もなく皆朱里に殺された。

ある物は、全身の骨を折られ。

ある物は、手脚の関節を粉々に砕かれ、放置されてのショック死。

そしてある物は、顔を思いっきり踏み潰されて死亡…

子供が、虫をおもちゃにして殺すように朱里は、子供をおもちゃにして殺すのを楽しんでいた。

13人居た子供達は、約1人を残して全て死んでしまった。

「あと…1人…」

朱里は、呟きながら最後の1人の少女を探した。

最後生き残りの少女アリスは、クローゼットの中で震えていた。

施設の子供達の中で最年少の彼女は、たまたまかくれんぼしている途中に眠ってしまったため、朱里に見つからずに済んだのだ。

しかし悪魔に取り憑かれた朱里からは、逃げ切ることは、できなかった。

バタン

クローゼットの中に、光が差し込み邪悪な笑顔を浮かべた朱里が血が滴る鉄の棒を持って立っていた。

アリスは、死を覚悟した。

だけど死にたくないと心の中で強く願ってもいた。

「私のために、死んでね♡」

今までに見せた事のない程に綺麗な笑顔を見せ朱里は、鉄の棒を振り下ろす。

アリスは、鉄の棒が当たる直前に朱里お姉ちゃんなんて死んじゃえ。

そう強く願いながら目をつぶった。

しかし、不思議な事にいくらまっても鉄の棒は、落ちてこない。

恐る恐るアリスが目を開けると、目の前には、真っ黒に焼け焦げた何かと、赤い髪をした綺麗な男の人が膝まづいて座っている。

「あなた誰?」

震える声でアリスが訊ねると、謎の男は、「私は、ベリアル。貴方様の忠実な下僕です」

と、口にした。

幼いアリスには、何の事か理解できなかった。

困ったような表情を浮かべているとベリアルは、「何も覚えておられないのですか?」

と聞いてきた。

アリスが、コクリと小さく頷くと、ベリアルは、とても紳士的な笑顔を見せ、何が起きたのか。

そして、アリスが何者なのかを説明してくれた。

話を全て聴き終わったアリスは、余りの事にとても信じられない気持ちでいっぱいになった。

しかし、ベリアルと言う名のとても綺麗な悪魔を従えられる事に彼女は、幼いながらに優越感を感じていた。

「ベリアル君、私世界を支配するよ」

それは、純粋にベリアルを喜ばせたいと言う気持ちで言った言葉だった。

しかし、その言葉が肉食少女と人類の戦争に発展しようとは、アリスは、考えてもいなかったのだ。

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