さきの起こした大量殺人事件のすぐ後から突然凶暴になり、人に危害を加える少女達が多発するようになった。

それは、未知のウイルスによるものか…

はたまた異星人に、寄生された成れの果てなのか…

それは、誰にも分からない…

しかしある事件以降肉食少女による事件は、激減し、数ヵ月後には、肉食少女による事件など無くなったのだ。


さきの事件から1年が経ち、さきは、高校を卒業し警察官になっていた。

さきの務める部署は、肉食少女対策係。

かつては、華の部署と言われたそこも今じゃ、さきしか居ない寂しい部署となっていた。

肉食少女が再び現れた時に、戦うためさきは、毎日訓練を積んでいる。

いつものように朝8時には、出勤したさきは、筋トレのために、トレーニング室に向かう途中に不思議な少女とすれ違った。

彼女は、全身を隠すように黒いフードを被っており、不思議なオーラを漂わせていたのだ。

「誰だろ?うちの部署に入ってくれたらいいんだけどね?」

いつものようにさきは、キサラに話しかけるがキサラは、何か思うところがあるのか上の空で聞いていない。

「どうしたの?あの子知り合い?」

さきが尋ねるとキサラは、何事もなかったような笑顔を見せ「ううん、綺麗な人だなーと思って見とれてたの」

「確かに、綺麗だよね。なんか不思議な感じがしたけど」

それは、どこか懐かしいような、そんな感じだった。

しかしすぐに彼女と、再開する事なる。


一通りの筋トレと射撃訓練を終えたさきが自分の部署に戻ると部屋の中に警視総監と先程の少女が座っている。

部屋を間違えたと思い、慌てて部屋から退出しようとするさきを警視総監が慌てて呼び止めてくる。

「待ちなさい。君に話がある」

警視総監が直々に話って何だろう…

恐る恐る警視総監の前に座るさき。

警視総監は、チラッと少女の方を見ると言いにくそうに口を開いた。

「実は、このウリエルさんは、天使なのだ」

「。。。。。」

空気が凍りついたのを感じたのか警視総監は、咳払いをして話を続けた。

「私も最初聞いた時は、君と同じ反応だったよ。しかし…」

ピリリリリリリリ

そこまで話した時に、警視総監のスマホが突然鳴り響いた。

「誰だこんな時に…」

怪訝そうにスマホを取り出した内容を確認した警視総監の顔がみるみる凍りついていき、ウリエルと呼ばれていた少女に頭を深く下げると慌てて部屋からとびだしていくのだった。

一体何が書かれていたんだ…

「さて、邪魔者は、居なくなったし本題に入りましょう。ルシファー」

ルシファー?何のことだ?

キョロキョロと当たりを見回すさきに苛立ったのか、ウリエルは、机を激しく叩きつけた。

バンッ

「ルシファー、ふざけてる場合じゃないわよ」

「あっ…あの…人違いじゃ…」

恐る恐るさきが答えるとウリエルは、急に頭を抱え座り込んだ。

「あの…大丈夫ですか?」

心配そうに訊ねるさき。

「はっ?大丈夫なわけないでしょ…あなたが堕天しても、意識を保てた訳が分かったわ…」

それだけ言うとウリエルは、1枚の鏡をさきの前に差し出した。

鏡に映りこんだ姿は、何故か自分では、無くどこか見覚えのある美しい美女だった。

しかしその姿は、人間では、なく天使と悪魔を足したような姿をしている。

「これって…」

「そうよ、それがあなたの真の姿。あなたは、大天使ルシファーの転生者よ」

何を言ってるの?

さきがそう言おうとした瞬間に見覚えの無いはずの光景が頭に浮かび上がってくる。

そこは、とても綺麗な庭園で沢山の天使達が仕事をしている。

そして、知らないはずなのに何故か懐かしい…

「少しは、思い出した?あなたは、何故か記憶と魂が分離してるようね。ちゃんと全てを思い出してきなさい」

ウリエルにそう言われた瞬間に体が鏡の中に吸い込まれた。

えっ?何?

そこは、綺麗な花畑。

そしてそこには、先程見たルシファーと呼ばれていた女性にそっくりな少女が…

「あなたもしかしてルシファー?」

「そうだよ?」

少女は、嬉しそうに答えると花畑の中を駆け抜けていく。

数メートル進んだところでルシファーは、振り返り手を振ってきている。

さきも、ルシファーに手を振り返し、近づこうとした瞬間に、どこからか現れた黒い狼がルシファーに襲いかかろうと飛びかかった。

「危ない」

咄嗟に叫びルシファーに、駆け寄ろうとした瞬間。

狼が巨大な落雷に撃たれたのだ。

雷に撃たれた狼は、丸焦げになりこんがりと美味しそうな香りを漂わせている。

「…ルシファー怪我は、無い?」

心配そうに駆け寄るさきの顔を驚いた表情で、まじまじと見つめ「私の事怖くないの?」と、訊ねてきた。

「えっ?何が?それより怪我とかしてない?」

心配そうに問いかけるさきに、ルシファーは、嬉しそうに抱きついてくる。

その瞬間さきは、懐かしさを覚えた。

自分も、こうやって誰かに抱きしめてもらった気がする。

「よしよし、怖かったね。もう大丈夫だよ」

さきが頭を撫でてあげるとルシファーは、嬉しそうに笑いかけてくる。

しかし狼は、死んでは、なかった。

いや狼は、偽りの姿だったのだ。

狼の体を食い破って出てきた何かが、さきに襲いかかってくる。

そこで場面が突然変わり、ルシファーは、仲間の天使達と言い争っている光景がさきの目の前に広がっていた。

しかし、2人には、さきの姿が見えていないのか、黙々と話を続けている。

「ガブリエル。なぜ信じてくれない?このままだと天界は、おろか人間界すらも危ういんだぞ?」

「流石にありえないでしょ?天使を人間に転生させる秘術を神々が使おうとしているなんて?何のメリットがあるのよ?」

「分からない…だけど予知夢を見た。私の予知夢が外れた事なんてある?」

ルシファーの予知夢の的中率は、他の天使達よりもずば抜けて高く、その的中率は、90%とも言われていた。

「確かにそうだけど…そんな事をしたら天界のバランスが崩れるだけじゃない。天界も、人間界も、崩壊する事になるのよ?そんな事神々がする訳ないじゃない?」

「確かにそうだけど…えっ?人間界も?どういう事?」

「はあ?そんな事も知らないの?天使が人間に転生した場合人間の持つ悪意に触れて堕天してしまうのよ」

「そんな事が…」

そこで、再び場面が変わり今度は、戦果の真っ只中に立っている。

「神よ、なぜ私達を裏切った?」

「…答える義理は、無い。死ね」

神は、それだけ口にすると、巨大な落雷をルシファーに落とした。

ドゴーン

激しい音と、砂煙が辺りを包み込んだ。

「おのれ神めー」

さきは、無意識のうちに咄嗟にそう叫んでいた。

なぜ叫んだのか分からない。

ただ、神への恨みがふつふつと湧き上がってきたのだ。

しかしルシファーは、生きていた。

服は、ぼろぼろで体には、無数の傷が痛々しく刻まれている。

しかし、生きていたのだ。

「はぁはぁ…この命の炎が燃え尽きようともお前達の計画は、必ず止めてみせる」

「はぁーー」

ルシファーは、最後の力を振り絞り神に向かって電撃を放つ。

その電撃を防ごうと、神も雷の壁を作るがその壁を粉砕して電撃は、神の心臓を貫いた。

「ぐふっ…おのれルシファー…だが遅かったな…我らの秘術は、完成してるんだよ…」

捨て台詞も思えるセリフを吐いて、神は、燃え尽きる。

「はぁはぁはぁはぁ…やっ…」

バタン

そこでルシファーも息絶えさきは、現実に引き戻されることになる。

「…思い出した…私は、ルシファーだ。そして、キサラ…ううんガブリエル。今まで、私を守ってくれてありがとう」

全てを思い出したさき(ルシファー)をガブリエル(キサラ)は、優しく抱きしめてくれた。

「あの時、あなたの言うことを信じてあげれなくてごめんなさい…」

「いいのよ。それより戦いは、まだ終わってなかった。二人とも力を貸して」

「勿論よ」
と、ウリエル。

「当たり前でしょ?」

と、ガブリエルが答えた。

「ところであんた大丈夫?記憶を取り戻したけど肉食少女になったリしないでしょうね?」

突然席を立ち、不安そうに尋ねてくるウリエル。

その問いかけに、ガブリエルが代わりに答えた。

「大丈夫よ、私が彼女の中の悪意を抑え込んでるから」

「そう言う事ね…」

その答えを聞いたガブリエルは、安堵の表情を浮かべ席に着くのだった。

「あなたこそ大丈夫なの?肉食少女になったりしないでしょうね?」

「…ウガー」

突然ガブリエルに、襲いかかろうとするウリエル。

慌ててその場から離れようとするガブリエルを見てウリエルは、笑いだした。

「ぷっ…あはははは」

「えっ?…騙したの?」

唖然とするガブリエル。

「ごめんごめん。しかし、簡単に騙されるとかほんと昔から変わってないな、ルシファーは、気づいてたぞ」

ウリエルの言葉に恥ずかしそうにさきの方を見るとさきは、当然だろ?

と言うような表情を浮かべ、ガブリエルを眺めている。

「ほっ…本当は、私も気づいてたいたぞ」

と、胸を張ってみせるガブリエル。

そんなガブリエルを無視して、ウリエルは、本題の話を話始めた。

「最近堕天使…いや、肉食少女と呼ぶべきかな?」

「呼び方は、なんでもいいよ。それより肉食少女がどうしたの?」

珍しくシリアスな表情で訊ねるさき。

「そうね、肉食少女による事件が最近減ってるでしょ?あれは、サタンの転生者によるものだと言うことが分かったのよ」

「サタンですって?」

サタンは、かつてルシファーが倒した魔界の王の事である。

「ええ。だけど一体誰に転生したかまで分かってないの…噂では、少女に転生したと言われている」

「つまりサンタが肉食少女達を戦力として従えていってるってことかしら?」

やっと話に入ってきたガブリエルは、何故かサンタのコスプレをしている。

「…ガブリエル…あなたなぜサンタのコスプレを?」

怒りのこもった声でウリエルは、問いただした。

「えっ?だってサンタが肉食少女を従えてるんでしょ?」

「サンタじゃないわよ、サタンよ。ちゃんと話を聞いときなさいよ」

「ごめんなさい…」

「あはは懐かしいな、この感じ」



天使達が談笑している頃総理官邸では…


「総理大臣さんこんにちは。今日から日本の支配者になるアリスだよー」

そう言って手を差し伸べるアリス。

しかしすでに総理大臣は、虫の息でアリスの手を握り返す事など出来ないほどに弱っている。

「ベリアル君やりすぎだよ。アリス、この人とお話したかったのにー」

と、ほっぺを膨らませて文句を告げるアリス。

その様子にベリアルは、申し訳無さそうにその場で跪き、アリスの手にキスをし、口を開いた。

「申し訳ございません。アリス様、何分力加減というものを分かっておりませんでした。今すぐこの男に憑依して蘇生させて見せます」

そう告げるとすぐにベリアルは、総理大臣に憑依した。

悪魔に憑依されると人間は、魂の半分を奪われるがその反面人間離れした身体能力を手にする事が出来るのだ。

藤崎朱里が大量殺人を軽くやってのけれたのも、一重に悪魔の力があったからである。

ベリアルに憑依された総理大臣は、みるみるうちに傷が塞がり先程まで虫の息だったと思えない程に復活した。

「総理、私は、アリスだよ。私の言うことを聞いてくれたら生かしといてあげる」

一見すれば、幼い少女。しかし、その実態は、恐ろしい悪魔を従える化け物。

もはや、総理に拒否権など存在しなかった。

「わっ…分かりました」

2018年12月2日この日を持って人類は、肉食少女達の餌になる事が確定した。

しかし、神々の真の狙いは、肉食少女を作る事でも人間世界の破滅でもなかったのだ…