接触プレーになることもなく危なげなく二塁に立った旭くんはスライディングして汚れた膝を払って、ホームインしたランナーに向けてにこりと微笑んだのが双眼鏡越しに確認できた。
「笑ってるぅぅぅ…」
一瞬でも試合中に彼の笑顔が見れると、レアなものを見れたような気がして嬉しくなってしまう。一人で噛み締めるようにぎゅっとレプリカのユニフォームの胸のあたりを握った。
得点が入ったので東京音頭で応援席が盛り上がる。
この球団特有の応援で、こういう時は東京音頭に合わせて傘を振るのだ。
素早くミニ傘を出してゆらゆら振っていたら、ちゃんと用意していたらしく隣の彼女も楽しそうにブンブン振り回していた。
「湊くんも買えばよかったのにー。これ、すっごく楽しいよ!」
手をブラブラさせている彼に文句を言っている彼女の背中に、私は我慢できなくなって声をかけた。
「あの!これ使ってください!」
「えっ?」
振り向いた彼女たちは、少し驚いたようにこちらを振り向く。私はバッグから予備のミニ傘を差し出していた。
「お気になさらず…」と言いかけた彼を遮って、彼女はありがとうございます!と元気よく答えて傘を彼に渡し、無理やり一緒に振らせている。
なんかこの人、面白い。面白すぎる。