「あ! ねえねえ、湊くん。さっきボールとった人、もしかして左利きじゃない?」

一人で観戦すると、ついつい周りの人たちの話を聞いてしまうクセがつく。こうして攻撃と守りの入れ替わりのふとした時間なんかは、特にそれが発揮される。

耳をダンボにして隣の彼女が明らかに旭くんのことを言っているのを聞いていた。
そしてやはり、彼女の彼氏さんは旭くんのチームに詳しい。旭くんのことも、さらさらと説明してくれている。

「そうだよ。左利きはセカンドが最も不向きなのに、守備力が高く評価されてのプロ入りなんだ。すごいよね」

「なんで?」

「ボールは一塁に送球することが多いから。左利きで左側に投げるにはどうしても動きが多くなるんだ」

彼が左手で小さいモーションで投げる格好を見せていた。

「俺も左利きだから、連盟の野球部入るのも諦めた」

「へえー。さすがに双眼鏡ないと顔までは見えないけど、イケメンかなー」

よ、よかったら私の双眼鏡、使ってください!
……とは言えない。なので、心の中で「私的には最高にイケメンですよ!」と言っておいた。


すっかり他人の話に耳を傾けることに集中していた私は、「あのー、すみません」と突然くるりと身体の向きを変えて声をかけてきた彼女に驚いた。
たぶん、この時の私は目も口もパカッと空いていたと思う。

「このチームでイケメンって誰ですか?」