言い聞かせているようにもとれる彼の口調は、私の胸をぎゅっと押しつぶした。


「あのですね、私、銀行で初めて藤澤さんに会った時、すっっごく手のマメが気になったんです!」

茜霧島が入っていたグラスをほとんど空にした私は、意を決してこぶしを握りしめた。

「マメ?」

「そんなにマメができるまで、何をしたんだろうって」

「よくこんなの見つけましたね。そういえば前にも俺の手のマメのこと気にしてましたっけ…」


藤澤さんは驚いたように自身の右手を開いた。
その手のひらには、やっぱり最初に見た時と同じように、何度も潰れてかたくなったマメがたくさん。

弱点になっている打撃をよくしたいと、きっとかなりの練習を重ねてきたはずだ。その証拠がこれなのだ。


「銀行員なのにそんなマメ作ってるの、とっても不思議でした。そしたら、たまたま凛子がやまぎんの野球チームを応援していて、藤澤さんがそこの選手だって聞いて。気がついたらあっという間にファンになってました」

プロに行く夢を諦めないで、なんて簡単なことは絶対に言えない。
それだけは私にも分かったので、ふと目が合った藤澤さんをしっかりと見つめ返した。

「野球の楽しさを教えてくれたのは藤澤さんですよ。他にもきっと私みたいな人がいますから。だから、頑張ってください」

「……ありがとうございます」

彼は笑ってくれた。
それだけで、私の心は軽くなったけれど。
彼の心はどうなのか、それが気になった。