あけすけに思い出話をしているのが面白いのか、藤澤さんは聞きながらも終始口元に手を当てて笑いを堪えていた。
ちょっとした変化だけど、初めて会った時よりもだいぶリラックスしたように見えるので、少しは気を許してくれてるのかなと感じる。

「俺はその中継の影響で野球を始めたので、逆に感謝してますね」

「ずっとセカンドですか?」

「小三で始めて、その時はショートを守ってました。高校の途中でセカンドにいた先輩が怪我で抜けて、穴埋めをしてるうちにそのまま定着した感じです」

「今まで全然意識してなかったんですけど、高校野球って毎回すごく盛り上がりますよね。甲子園行くの、みんなの夢なんだなって」

「そうですね。俺も甲子園は二回行きましたけど、とても神聖な場所みたいに思えました。…………どうしました?」


毎度毎度、彼はいつもさらっと普通に言ってのけるから気づきにくいけれど、甲子園に出場したこともあるなんて!
もはや言葉も出ずに驚きを表現する他なかった。

「あの、とっても失礼なことをお聞きしますが、藤澤さんってかなり華麗な経歴をお持ちですか?」

「え?全然!俺は普通だと思いますけど」

きょとんとしている彼は別に自慢しているわけでもなく、ただ自分の歩んできた道の話をしているに過ぎない。

「ただ、東京の大学に野球推薦で行かないかという話があった時、その話を蹴ったんです。ちょっとそれだけは後悔してます」

懐かしそうに頬杖をついて手の中にあるグラスの氷ををカランと鳴らした彼に、私は身を乗り出して尋ねる。

「どうして蹴ったんですか?」