でもそれから約一年半がたった秋に、姉の病気が急激に進行した。

姉は最近、以前に比べて物忘れが酷くなった。

でもそんな大したことではない。

昨日の夜ご飯とか、中学の頃の先生の名前とかその辺。
まぁそれも初めの方だけだったのだけれど。

冬に近づくにつれて、姉の記憶はより一層薄まって行った。

そしてとうとう家に帰らなくなった。

その頃には母の話によると、学校の記憶はもうほとんど残ってなく、
僕ら家族のことも忘れかけていたそうだ。

僕は受験期でお見舞い所ではなく、姉のお見舞いに行ったのは結局二度だけだった。

一度目は、母がどうしても仕事を抜けられず仕方なく行ったものだった。

僕が行った時はまだ記憶は消えていなくて、ドアを開けると満面の笑顔で「春斗!」と呼んできた。


僕は最低にも元気じゃん、と少し呆れた。