麻衣 「 ただいまあ 」


洸介 「 えっ… 」


麻衣 「 どうしたの? はやく入らないと風邪引いちゃうよ 」


あたしは振り返って彼に声をかけた。


洸介 「 ここって、小野田さんの家だったんだ 」


麻衣 「 えっ…どうして名前… 」


びっくりした。どうして名前を知っているの。
彼に名前を呼ばれただけで心臓が跳ね上がった。


洸介 「 あ、表札に書いてあったから 」


なんだあ……。


ガクッと肩を落とす。なに期待してるんだろう。
恥ずかしい。バカみたい。


洸介 「 そっかあ、小野田さんちだったんだあ 」


彼がもう1度、呟く。


あたしの家は喫茶店だ。
いや、レストランと言ったほうがいいかも。
客席から見える海のおかげで中々繁盛している。


洸介 「 オレ、ここのカレーライス食べたよ 」


矢野くんがそう口にした。


知らなかった。


矢野くん、うち来たことあったんだあ。


あたし、お店手伝わないからなあ。


今度から手伝おう。うん。


麻衣 「 ほら、入って‼︎ 」


洸介 「 お邪魔します 」


店に入るのにお邪魔しますというのもおかしなものだ。


「 いらっしゃま… あら、麻衣⁇ お友達…⁇ まあ‼︎ 2人してそんなに濡れて‼︎ 」


麻衣 「 タオルと傘貸して‼︎ お母さん‼︎ 」


母 「 はいはい、ちょっと待ってね〜 」


洸介 「 すいません 」


お母さんからタオルを受け取った矢野くんが奥に引っ込むと、お母さんがニヤニヤしながら呟いた。


母 「 ちょっと‼︎ 誰よ、あのイケメンくん 」


麻衣 「 ちょっとね… 」


母 「 彼氏⁈ 」


麻衣 「 ちっ、違うよ‼︎ 」


あたしはお母さんを押し退けて猫にミルクをあげた。


まだ、とても小さな子猫だ。


あたしが猫を撫でていると矢野くんが戻ってきた。


洸介 「 すいません、ありがとうございました 」


母 「 いいのよ‼︎ あ、そうだ‼︎ カレーでもどう? 」


麻衣 「 ちょっと‼︎ お母さん‼︎ 」


母 「 ね? 食べていきなさい‼︎ 」


矢野くんがクスリと笑う。


洸介 「 せっかくですけど、遠慮しておきます。悪いですし 」


母 「 うちのカレーは食べられないかしら? 」


麻衣 「 ねえ‼︎ お母さん‼︎ ほんとにやめて‼︎ 」


洸介 「 いや、そういうわけでは… 」


母 「 はい‼︎ じゃあ食べていきなさい‼︎ 」


そう言って、お母さんが奥に引っ込む。


麻衣 「 ごめんね、矢野くん 」


洸介 「 あはは( 笑 ) 全然いいよ!! カレー好きだし、むしろいいの⁇ 」


麻衣 「 えっ? あ〜‼︎ もちろん‼︎ 」


ありえない。こんなに矢野くんと話せてるなんて。


その日、彼はうちでカレーを食べていった。


彼の助けた猫は、うちで飼うことになり
あたしはその猫を " コウ " と名付けた。


次の日、彼は学校には来なかった。


彼と同じクラスの子に聞くと、
体調を崩してしまったらしい。


ああ、昨日あたしがもっとはやく気付いていれば…。


あたしは矢野くんに申し訳ない事をしたと思った。