初めて彼に出会ったのは、高校の入学式。
一目惚れだった。
それまでは一目惚れとか全然なくて…
でも、彼はあたしを一目で魅了した。
1年生のときは違うクラスだった。
遠くから見ているので精一杯で、話すことなんて…
ましてや
" 好きだ "
なんて言えるはずもなかった。
ただ…
1度を除いて。
あれは、6月の土砂降りの雨の日だった。
あたしはクラスの男子たちに
委員会を押し付けられ遅くまで残っていた。
麻衣 「 もう‼︎ あいつらまた逃げやがって‼︎ 」
外を見ると、また雨が一段と強くなっている。
麻衣 「 お母さんの言う通り傘持ってきてよかったあ。朝は降ってなかったけど… 」
あたしは傘を広げ、雨の中歩き出した。
麻衣 「 あれ…? 」
まず、あたしの目に入ってきたのは鞄だった。
大きな木の下に鞄が落ちていた。
麻衣 「 誰のだろ… 」
鞄を落として気付かない人なんていない。
まさか…
何かあったとか⁈
不安になったあたしは鞄に近づいてしゃがみこんだ。
鞄を開けて名前を見てみると…
麻衣 「 えっ… 」
矢野 洸介 ( ヤノ コウスケ )
そこにはそう記されていた。
あたしは鞄を抱えると辺りを見渡した。
誰も……いない。
まさか…上⁈と木の上を見上げるが誰もいない。
段々と不安になってきたあたしは
鞄を抱えたまま歩き出した。
すると、自転車の置き場を通り過ぎようとした時
声が聞こえた。
「 あーっ、キミ‼︎ 」
びくりとして振り返ると
そこには " 彼 " が立っていた。
その彼は、ずぶ濡れで腕には猫を抱えていた。
麻衣 「 えっ、あ…… 」
あたしはびっくりして声が詰まった。
洸介 「 その鞄、オレのなんだ‼︎ 拾ってくれたんだ、ありがとな 」
そう言って、彼はニッコリ笑った。
反応に困り、彼の腕の中の猫に視線をズラした。
彼はそんなあたしに気付いてか気付かずか、
猫の顔をこちらに向けた。
洸介 「 かわいいだろ? こいつ 」
麻衣 「 あ、うん… かわいい… 」
いいなあ、キミ。
矢野くんに抱かれちゃって。
と、心の中で語りかける。
洸介 「 木に登ったら降りられなくなっちゃったみたいで上で震えてたんだ 」
彼が猫を撫でながら言った。
そこで、あたしははっとした。
麻衣 「 さ…さむくない⁈ 」
彼も猫もビショビショで、
あたしは気を遣えなかったことを恥じた。
洸介 「 うーん、まあちょっと 」
麻衣 「 うち近いから寄って行きなよ。タオルと傘貸すから 」
思わず、そう口にしていた。
自分でもびっくりしたが、
言ってしまったものは取り消せない。
彼も軽く目を見開いてから、笑って言った。
洸介 「 ありがと。でも大丈夫だよ。鞄、くれる? 」
そう言って手を伸ばしてくる。
麻衣 「 だめっ‼︎ 風邪引いちゃう 」
洸介 「 心配してくれて嬉しいよ? けど、ほんとに大丈夫だから 」
麻衣 「 だめ…… だめだよ…… 」
洸介 「 えっ…? どうしたの? 」
麻衣 「 あたし……好きなの…… 」
洸介 「 あっ、えっと…… 」
麻衣 「 矢野くんのことが……好きなの。だから…このまま放っておくことなんてできない 」
いま、思えばずいぶん大胆なことをしたと思う。
結局、彼はあたしに負けてうちに来ることになった。