一時間ちょうどで店長が戻り、今度は焼きの練習に入った。

材料は全て届いているから、自分の好きなものをキッチンにオーダーして、キッチンはそれを作る。その間にホールは教えてもらった接客の基本と、オーダーのときに使うハンディーの練習、そして全てのメニューを頭に叩き込むことに集中した。

「今から俺が焼くから、それを良く見て次はお前らが焼けよ」

天返しを持った店長が、油を引きながらそう言った。

メニューはまず広島焼き。

生地をクレープ状に薄く焼き、その上にキャベツ、肉、薬味を乗せ引っくり返す。横で焼き蕎麦を焼き、先ほどの生地を蕎麦の上に乗せる。またその横で卵を割り落とし、半熟状態の上に焼き蕎麦を乗せる。引っくり返して、ソースを塗って出来上がり。

店長の手つきは滑らかで、私は思わず説明も耳に入らないほど彼の手元に熱中した。

同じ広島焼きの生地がキッチンから届き、今度は私が挑戦。

広島焼きは生地、焼き蕎麦、キャベツ、薬味、卵、と層になっているものだから、引っくり返すのは至難の業だ。

私が具の飛び出した広島焼きを前に店長の顔を見ると、店長はニヤリとしながら

「形を整えて、自信持って、これで良いって顔してれば良いんだよ!」

と言った。自信を持てば、下手なものでも上手いように見せられる。

彼のその言葉が、たとえ慰めにしても嬉しくて、私はとびきりの笑顔で応えた。