でも、それと同時に、俺からピアノを取ったら何が残るんだと、呟く自分もいる。
 

そうだよ。俺なんか、ピアノ以外になんの取り柄もないくせに、俺からピアノを取ったら、絶望的な人生が待ってること、間違いなしだ。
 

真っ白だった心の中に浮かんだ、観客が俺から離れていく様子。
 

技術だけじゃ、どうにもならなくなった先に待っている、俺の未来そのものだ。
 

どうしたらいいんだ?どっちにしろ、俺には絶望的な未来しか待っていないという事なのか…?
 

はっと顔を上げると、俺はいつの間にか下駄箱に来ていた。周りには誰もいない。
 

昇降口からは、淡い橙色の光が、静かに俺を照らしている。
 

『明日、放課後にまた音楽室で会おう』
 

昨日、向日葵がそんなことを言っていた。
 

向日葵は、音楽室で待っていてくれてるのかな。
 

『君のピアノに感情を入れてあげる』