観客から見たら、何の感情もなしにただただ曲を弾き続ける俺は、悪魔のピアニストにしか見えないのかもしれない。
 

「空川…」
 

黒西の優しい声が、上から降ってくる。
 

でも俺は、静かに立ち上がると、カバンを肩に掛けた。
 

「帰る」
 

それだけ言い残すと、俺はみんなの答えも聞かずに、教室を出て行った。
 

廊下を歩いていく。短いはずなのに、永遠に続くんじゃないかってくらいに、長く感じた。
 

足が自然と速くなる。どんどんどんどん速くなって、とうとう走り出した。
 

一体、なんなんだ、俺は。
 

ピアノなんて嫌いなくせに、いざピアノがなくなるところを想像したら、こんなに怖くなって。

挙句の果てには、悪魔みたいな演奏と言われた。
 

自分の指を切りたくなった。そして、ピアノなんか二度とできない体にしてやりたかった。