突然、どこからか囁き声が聞こえた。
 

普通の人じゃ絶対に聞こえないくらい、小さな声。
 

でも、俺は耳を鍛えているから、はっきりと聞こえた。
 

声のする方を見ると、数人の男女がこっちを見て、なにやらごにょごにょと話していた。
 

「ねえ、空川」
 

自分の名前を呼ばれ、はっとして振り向くと、黒西が俺に向かって微笑んでいた。
 

「あ、黒西。どうしたんだ?」
 
「ううん、大した用事じゃないんだけど。ただ、ピアノよかったよって、伝えたかったの」
 

俺は、動揺を通り越して笑ってしまった。
 

「冗談やめろよ。途中から、変な演奏になってたし、突然やめるし。全然、演奏として成り立ってなかった…」
 
「そんなことないわよ!すっごい良かった。男らしい演奏で、難易度も高い曲だろうし。ほんと、すごくよかった」


俺の言葉を遮り、あまりにも真剣な顔で言ってくる黒西に、俺は声は出なかった。