途端に、ピアノの音も遠のいてきた。
 

なぜ?なぜ、ピアノの音が聞こえなくなっていく?
 

ダメだ!消えるな、消えるんじゃない!
 

心の中で叫んでも、ピアノはだんだん壊れていくように、音がなくなっていく。
 

それでも音を消さないように、俺はより一層強く、ピアノの鍵盤をたたいた。
 

「こんなの、演奏でも何でもない」
 

そう言って、俺を称賛した人々は、俺の顔写真の入ったパンフレットを捨てて、会場から出ていく。
 

行かないで!見捨てないで!もっと、見てくれ、認めてくれ!
 

俺の顔写真が、踏まれていく。ボロボロになっていく。
 

嫌だ、あんなボロボロになりたくない!俺からピアノを奪うな!
 

どんなに訴えても、皆は鋭利な刃物のような視線を向け、出口から出ていく。
 

そして、とうとう会場には、誰もいなくなった。
 





その瞬間、音が消えた。