『でもさ、そうやって感情なしでピアノを弾いてたって、いつかバレる日が来るんじゃないかな?』
 


何にもなくなった、真っ白な心の中に、突然現れた向日葵の言葉。
 

「っ」
 


思わず目を見開いた。


初めてだ。真っ白になったらその瞬間、俺に残るのは音と指だけなのに。
 

向日葵は目が見えないはずなのに、俺と目は合ってたなかったはずなのに、なぜかその時の向日葵の瞳は、大きな意志を宿していたような気がする。
 

バレる日…。
 



観客が消えていく。誰も、俺のピアノの音を必要としなくなる。
 

もしそんな風になったら?
 

『孤高の天才ピアニスト』は、ただの孤高になってしまう。
 

息が荒くなってきた。指がコントロールできなくなっていく。
 

嫌だ、嫌だ、嫌だ。
 

やめてくれ…。余計な考えは、俺の頭の中から出て行ってくれ…。
 

でも、不安の黒い煙は、俺の中でもあもあと吹き上がってくる。消したくても、換気扇なんてどこにもない。

息苦しくなってくる。