自分でもびっくりするくらい、高速で動く指が、音を奏でる。
 

そうだ、それでいいんだ。
 

いよいよ、本領に突入する。
 

俺は一瞬手を鍵盤から離すと、思いっきり鍵盤をたたいた。
 

最大限の注意を払って、最大限の音量を出して、指を強く動かす。
 

「すっげぇ…」
 

感嘆の声が漏れた。
 

そんな言葉に喜ぶ余裕なんてない。
 

左手と右手。両方の全指を使って、鍵盤をたたいた。
 

すると、俺のピアノの音が、頭の中でより大きな音量になっていく。
 

きた。
 

心の中にあるものが、風に吹き飛ばされる砂のように、消えていく。
 

それと同時に、音が大きくなっていく。
 

視線に対する恐怖も、ピアノに対する嫌悪感も、なにもかも消えていく。

感情も全部全部、消えていく。
 

俺の前で、指が動いている。音が聞こえる。それしか、今の俺の頭の中にはなかった。
 

心の中が、真っ白になった。
 






いける。