横から入ってきた水田は、文句を言いながら伊藤の頭をコツンと殴った。
 

「いたっ。な、何すんだよ!」
 
「騒がしいから、鞭打ったらマシになるかと思ったんだよ」
 
「馬じゃねえんだよ、俺は!」
 

まただ。また、言い合いをしている。

どこか楽しそうな言い合いを。俺はその中に入れない。
 

俺は二人に背を向けると、教室の出口に向かって歩き出す。
 

『孤高の天才ピアニスト』
 
そう言われて、独りぼっちにさせられていた時の余韻が、まだ残っているんだ。
 
あんな楽しそうな二人を見ていると、俺はやっぱり部外者なんだと思ってしまう。
 

ドスン!
 

「よ!」
 

背中に少し痛い感覚を感じたと思ったら、伊藤が俺の肩を触っていた。横では、水田が笑っている。
 

「知らないうちに行くから、どこに行ったのかって一瞬焦ったよ」