「うーし、音楽室行こうぜ」
 

二時間目の数学の後、伊藤は音楽の教科書をもって、俺を誘ってきてくれた。
 

「あ、ああ。行こうか」
 

俺も、慌てて教科書をもって、立ち上がる。
 

最初はピアノの事も考えていたが、結局いい結論は浮かばなかった。


考えるだけ無駄と思い、今はさして気にしていない。
 

「お前はいいよなぁ。俺も、譜面くらいは読めるようになりたいぜ」
 

何でもない事の無いようにポツリと呟く伊藤に、俺は驚愕してしまった。
 

「え?お前、譜面読めないの?音符とかも?」
 
「読めるわけないじゃん、え、なに、驚いてんの?ああ、音楽差別!」
 

伊藤が俺を指さして、大げさに叫んだため、周りの人たちも一瞬俺たちの方に目を向けた。
 

「バ、バカ!誤解を招くような言い方するな!」
 

俺が慌てて伊藤の口を押えるが、それでもなお、何かをわめいている。
 

ダメだ…。やっぱり、ちょっとコイツめんどくさい奴…。
 

「何やってるの、二人で。騒々しいな」