「はぁ…」
俺は、目を閉じて息を吐くと、真っすぐと前を見つめる。
その先に見えるのは、大きな門に、いかにも新しい校舎。上の方には『桜木』と書かれている。
これからここに通うのか。
高級そうな校舎を目の前にして、一瞬体が門をくぐるのを躊躇するが、足を一歩前に出す。
「あの子、見ない顔じゃない…?」
後ろから、ひそひそ声が聞こえてきた。
見ない顔って…まさか俺の事?
そう気づいた瞬間、心臓がドクっと跳ね上がった。胸の辺りが、微かに痛くなる。
俺は、顔を伏せると早足で歩きだす。
昔からそうだった。
誰かが、自分の事について噂してるのを聞くと、悪口を言ってるんじゃないかと、怖くなってしまう。
たぶん、過去のトラウマだろう。
『…あれが、機械ピアニストよ…』
観客席から聞こえた、声を思い出した。
汗ばんできた手をぎゅっと握り、心を落ち着かせる。