向日葵と出会ったとき、向日葵と笑いあったとき、向日葵と遊んだとき、向日葵に背中を押された時、向日葵の泣き顔を見たとき、そして、向日葵とピアノを弾いたとき。
忘れない。絶対に忘れない。
向日葵と過ごした、輝かしい日々は、俺の心の中にずっと残ると思う。
「…俺は、たぶん、これから先、だれとも付き合わないし、結婚もしないと思います」
俺の言葉に、向日葵のお母さんは「え?」と、俺を凝視した。
「これから、色んな女性と出会っても、俺は多分、ここは向日葵みたい、とか、向日葵だったら、とか、なんでも向日葵を基準に考えてしまうと思います。それは、相手にも失礼です」
すると、向日葵のお母さんは、戸惑ったように笑った。
「そ、それはありがたいけど。でもね、日向君は、向日葵の事は忘れて、これからの人生を…」
「そうじゃないんです」
俺はそう遮ると、向日葵のお母さんに向かって、にっこりとほほ笑んだ。
何度も、向日葵が俺に、そうしてくれたように。
「俺が、向日葵の事を忘れたくないんです」
忘れたくない。あの笑顔を、あの言葉を。
全部、忘れないでおきたかった。
「そう…」
向日葵のお母さんは、かすれた声でそう言うと、嬉しそうに、頷いてくれた。