俺は、その言葉に複雑な心情を抱きながら、ゆっくりと紙を開けた。
 

「っ…」
 

…そんな。
 

文字を読んだ瞬間、俺の目から、止める隙も与えずに、大量の涙が溢れてきた。
 

鼻が詰まってきて、俺の涙が、向日葵の手紙を湿らせた。
 

書いてあった言葉は、ちょっとだけだ。


幼稚園児は書いたような、たどたどしく、大きな文字だが、それでも俺には、ちゃんと伝わってきた。
 





『ありがとう。
  大好きだよ、私の太陽さん』
 





これだけだ。これだけなのに、涙は止まらない。
 

『もう、空気が読めないなぁ』
 

いつの日か、君はそう言っていたけど。
 

空気が読めないのは、向日葵の方だよ。
 

自分は俺に気持ちを伝えて、俺だって伝えたかった。
 

ちゃんと、向日葵が遠くに行ってしまう前に、伝えたかった。
 

『ありがとう。大好きだよ、俺のひまわりさん』って、そう伝えたかった。
 

「…日向君は、向日葵の事が、好きだったのかしら?」
 

上から、向日葵のお母さんは尋ねる。
 

最初は、ひたすら頷くことしかできなかったけど、俺はやがて顔を上げると、「はい」と返事をした。


「俺の、初恋の相手でした…」
 
「そう」
 

向日葵のお母さんは、またハンカチで、涙を拭った。
 

「ありがとね。あの子を、そこまで大事にしてくれて」
 

俺は、黙って頷いた。