だから私は、向日葵なんだ。



次の日、放課後、俺は音楽室に向かった。
 

明日を文化祭に向けた今日は、授業全てが文化祭の準備になっていた。
 

黒西とも、普通に話せたし、伊藤と話すときも、別に違和感や緊張感はなかった。
 

でも心のどこかには、2人が結ばれますように、と願う自分もいる。
 

音楽室に着くと、向日葵はいつも通りに、白杖を横に置いて、ピアノの椅子に座っていた。
 

約一カ月ぶりくらいに見る、向日葵と音楽室のセット。
 

どうであれ、向日葵は、一番ピアノと一緒にいる時が、似合っているんだ。
 

「向日葵。本番明日だけど、どう?」
 

俺が向日葵にそう聞くと、「うーん」と唸りながら、指を鍵盤の上に置いた。
 

「曲的には大丈夫だと思うけど…。あとは、気持ちの問題かな」
 

ごもっともな意見に、俺は黙って頷いた。
 

そうだよな。そんな簡単に、恐怖から脱出なんてありえないよな…。
 

「でも、大丈夫だよ。怖くなんかない」
 

向日葵は、目が見えないのにもかかわらず、俺の気持ちを悟ったように、そう言ってくれた。


「日向君が一緒だから。一人じゃないから、大丈夫だよ」
 

向日葵は、またそう言って、笑った。
 

でも、肌は相変わらず、いや、もっと深刻に、青白くなっていた。
 

気のせいだと思いたい。