…でも、だからこそ、逃げることはできない。
向日葵とモールに行ったときのように。
笑ってごまかすこともできるけど、そんな風に逃げるのは、黒西に失礼だし、弱い奴のすることだから。
俺は、大きく息を吸うと、俺に向けられている黒西の瞳に負けないくらい、真っ直ぐと黒西を見つめた。
すると、黒西の瞳が一瞬ぐらつくのが、視界に入る。
「黒西。ありがたいけど、でも俺はやっぱりさ…」
「いいの!わかってる。言われなくたって、答えは分かってる」
俺の言葉を遮り、大きな震える声でそう言った。でもその顔は、優しく少し悲しそうな黒西のままだった。
「言ったでしょ?振られたって。空川が、『向日葵じゃなきゃダメだ』って言ったときに、私はもう振られてたんだよ。恋は、終わってたんだよ」
『世の中にはね、感情を押し殺して生きてる人だっているんだからね!』
黒西の言葉が蘇る。
あの時はなんのことだか分かんなかったけど、あれはそういう意味だったのか。
たまに見せていた黒西の不自然な態度も、全て説明がつく。
全てが腑に落ちたと同時に、後悔の念が押し寄せる。
なぜ、黒西の心に気づけなかったのだろう。
俺が鈍感だから?伊藤が黒西のことを好きだったから?