「やっぱり、ちゃんと言わなくちゃわかんない?」
俺は黒西を見下げた。俺よりも背が低いはずの黒西が、すがるような目を俺に向けている。
その瞬間、黒西は俺に駆け寄ると、腕を俺の腰に回した。
ドアから差し込む光が、俺たちの重なり合う影を、美しく見せている。
…黒西が、俺を抱きしめたのだ。
「ごめん。言葉じゃ言えない…」
黒西の声は、今にも消えそうなほどにかすれていた。
え?な、なにが、どうなって…。
混乱して、動くことができない。ただ自分でもわかるくらいに目を大きく見開いて、黒西を見つめるだけ。
「私は、ずっと好きなの。空川の事。今も、大好き」
それだけ言うと、黒西はゆっくりと俺から離れる。その瞳は赤く充血していた。
「空川が、初めてクラスメイトの前でピアノを弾いたとき、私は空川の力強い音と、真剣な顔に一目惚れしたんだよ」
初めて…。あの、悪魔の演奏みたいって言われたときだ。
そういえば、あのとき唯一俺の演奏を褒めてくれたのは、黒西だけだった。