「空川」
 

声を掛けられ、振り返ると黒西が立っていた。
 

「ちょっと、話があるんだけど」
 
「おお、いいぞ。なに?」
 

俺が、カバンをごそごそしながらそう言うと、黒西は俺の肩を叩いた。
 

「バカね。ここじゃできない話だから、こうやって言ってるんでしょ」
 

やけに鬼気迫った表情をしている。

俺は、黙って肩をすくめると、カバンを持って、「わかった」と答えた。
 


そのまま、俺は黒西に連れられ、屋上に続く階段まで来る。
 

屋上は出入り禁止だし、だれもここの階段は使わないせいか、ほこりっぽく、鼻がツンとする。

まだ、旧音楽室の方がマシだ。
 

「なんだよ。こんなところまできて」
 

早く練習がしたくて、俺は黒西をせかした。
 

「そんな慌てないでよ。とりあえず座って」
 

こんな汚いところに座れるか、と思ったが、黒西は平然と座るので、思わず引いてしまう。


ところが、黒西はそんな俺にも気づかず、顎を手に乗せると、ポツリと呟いた。


「…私ね、夏休みの間に、和仁に告白されたの」
 
「…え?」
 

こ、告白?告白って、伊藤が黒西に?
 

口を開けて、呆然と黒西を見ていると、黒西はクスクスと笑った。