じゃあ、今だって怖気づいている場合ではない。
 

向日葵のために、何かしなくては。そのために、逃げちゃダメなんだ。
 

向日葵のためなら、俺は勇気を出せるかもしれない。
 

ガタン
 

俺は、椅子から立ち上がった。
 

「日向君?どうしたの?」
 

俺は、大きな息を吐いた。
 

「あの人たちに、言い返してくる」
 

俺はそれだけ言うと、向こうの人たちに向かって歩き出した。
 

「ひ、日向君?いいよ、そんなことしなくてもっ」
 

後ろから、向日葵の慌てた声が聞こえてくるが、俺はそれでも足を、前に出し続けた。
 

足が震えてる。心臓がバクバクしてる。一瞬でも気を抜けば、逃げ帰ってしまうかもしれない。
 



でも、ダメだ。勇気を、勇気を出すんだ…!
 

「あの!」
 

俺は、できる限りの声を絞り出した。
 

女の人たちは、俺を怪訝そうに振り返った。


その表情だけでも、俺は「ひっ」と、言ってしまいそうになる。
 

この人たちは、今、俺の事をどう思ってるのだろう?
 

ずっと部屋に、練習のために引きこもっていたせいでもあるけど、ピアノで批判されてから、俺はいつも、人と話すたびに、そんなことを考えていた。
 

そして、それはいつもネガティブな方に転がっていく。だから、人とまともに話せなくなったんだ。