「…盲目の子を持つなんて、考えられないわ…。色々親御さんも大変よね…」
 
「…隣にいる子も、一体どんな気持ちなのかしら…」
 
「…結局、ああいう子には、いい未来も待っていないんだろうしね…」
 

なんて事…。
 

「…うっ…」
 

向日葵のうめき声が聞こえた。見ると、向日葵は顔を伏せて、飲み物のカップを握りしめた手が、震えていた。
 

向日葵だって、並外れた聴力を持っている。

俺が聞こえて、向日葵が聞こえない、なんてことはないはずだ。
 


どうすればいい?ここから、とりあえず離れよう、と声を掛けようか?ひどいこと言う人たちだな、と向日葵を慰めるか?
 

どうすれば、向日葵にとって最善の方法に…。
 

『逃げるのか?』
 

もう一人の、自分がそう囁いた。
 

逃げる?逃げるって、なにから?
 

俺は、もう一度、女の人たちを見た。相変わらず、俺たちを見てひそひそ話している。
 

『逃げるのか?』
 

まさか…。
 

いや、そんなの俺にできるわけないじゃないか。普通に初対面の人とも話せないし、ましてやそんなこと…。
 

いや、でも思い返せば、あのレジの人には強い口調で言い返すことが出来た。
 

向日葵だから、だっただろうか。俺じゃなく、向日葵のためだったから。