そうやって、お金をもらうのが嫌なら、ここに来なければよかったのに。
すると、向日葵はまた、満面の笑みを浮かべた。
いつもの、子供っぽい、純麗な笑顔に、俺はほっと胸をなでおろした。
「別に、何かを買いたかったわけじゃない。私は、日向君と二人で、ここに来たかっただけ」
こっちまで笑顔が漏れた。
平気でこんなことを言う向日葵だが、俺はどうやら、完全に慣れてしまったらしい。
そこまで、動揺したりもしなくなった。
「分かった」
それだけ答えると、向日葵はまた白い歯を見せて、表情が柔らかくなった。
モールに入ると、やっぱり人もいっぱいいる。しかし、向日葵は何も恥らずに、堂々と白杖をついて歩き出した。
「何しよっか?」
「やっぱり決めといたほうがいいんじゃないか?向日葵はほら…そんな歩けないだろ?」
気を使ったつもりだったが、向日葵は俺を振り返ると、白杖で軽く俺の足を叩いた。
「やめてよ、そんなに気を使うの」
「いや、でもさぁ」
「本当に大丈夫だって。まあ、辛いのは本当だけど、私は気を使われたくないんだから」
向日葵の財布の中にあった、一万円札が頭の中に浮かぶ。
向日葵が嫌がっているのは、こういう事なのか。
「…分かった。でも、辛かったらちゃんと言ってくれよ?」
「分かってるってー!」