「どうしたんだ、向日葵?」
いつもはここで何も言わないし、何も聞かなかった。
でも、今日は違う。しっかりと、逃げずに、向日葵に寄り添うんだ。
向日葵は、黙ってカバンの中から、財布を取りだした。
何をするんだ?と思ってると、向日葵は俺に財布の中を見せてきた。
「ええ!」
思わず叫んだ。
向日葵の財布の中には、一万円札が、六枚も入っていたから。
「な、なにこれ?」
「一万円札六枚」
「いや、それは知ってるけど!」
そこで、向日葵は悲しげに、ふっと微笑んだ。
「お母さんが、渡してくれたの」
「なんで?なんか、大きな買い物でもするのか?」
「しないよ。多分、お母さんは…」
向日葵はそこで一度、言葉を切る。向日葵の、どこを向いているのか分からない瞳が、大きく揺れていた。
「私がもうすぐ死んじゃうから、なんでもこうやって、買わせようとしてるんじゃないかな」
そっか…。
気持ちも、分からなくはない。
もうすぐ何も買えなくなってしまう娘に、少しの間だけでも幸せでいてほしい、そう思うのが親心だ。
「余命宣告されてから、お母さんは、いつもこんな感じ。最初は喜んだけど、もう私、買うものなんかないよ」
向日葵は悲痛にそういうと、財布をバッグの中に戻す。
「…じゃあ、なんで今日、ここに来たんだ?」
俺は質問した。