「なんだそれ。それじゃ、結局何もできないで終わるのがオチだぞ」
 
「それはない、それはない。何かしら、することはあるだろうから」
 

俺も向日葵も、冗談口調でそう言って、笑いあう。
 

でも、俺はそこであることに気づいた。
 

向日葵の肌が、ただでさえも真っ白なのに、さらに青白くなっていた事。
 

もう、綺麗な肌とか、そんなものじゃない。

本当に病人のような、なんにも知らない人だったら、「熱あるの?」と聞いてしまいそうな、そんな感じだ。
 

ああ、なんでこんなことに気づくんだ。別にこんなこと知ったって、傷つくだけだし、何の意味もない…。
 

『逃げちゃダメだから』
 

…逃げちゃ、ダメ。
 

向日葵が、一番実感しているはずだ。自分の体が、悪化していると。
 

でも、向日葵はちゃんと受け取めてる。なら、俺もちゃんと、逃げずに受け取めるべきじゃないのか。
 

「着いたわよ」
 

向日葵のお母さんの声を合図に、俺がはっと窓の外を見ると、大きなショッピングモールが見えていた。
 

「ありがとね、お母さん」
 
「ええ。じゃあ、また迎えに来るから」


俺と向日葵が車から降りると、向日葵のお母さんはにっこりと笑って、行ってしまった。
 

「いいお母さんだな」
 
「うん。まあ、一応ね…」
 

普通に言ったつもりだったが、向日葵は言葉を濁らせた。白杖が、微かに震えている。