いや、向日葵だって嫌に決まってる。でも、どうして向日葵は、こんなにも平然を装えるんだろうか。
もしかして、周りに気を使ってる?それとも、自分自身に負けたくないから?
分からない。何も分からない。
向日葵の事、理解するって決めたのに。こんなのじゃ、何にも役になんかたたない。
向日葵が弾く、右手パートの演奏が入ってきた。
いやいや、今はこんなことを考える時じゃない。向日葵をサポートするのが、俺の役目なんだから。
ちらっと向日葵の骨ばった細い指を見ると、まるで見えてるんじゃないかというくらいに、滑らかに動いていた。
向日葵は、目を閉じながら、微笑んでピアノを弾いている。
今、向日葵の奏でる世界は、どんな世界なのだろう。
『自分の好きなものを描くっていうのも、中々楽しいものなんだよね』
伊藤の言葉が蘇った。心臓が、またもや飛び跳ねる。
俺は、もう一度向日葵の顔を見ると、目を閉じた。
暗闇の中から、一人の女の子が、ピアノを弾いてる姿が出てくる。
焦げ茶色の髪に、細い首。
向日葵だ。後ろ姿だけど、間違いなく向日葵。
だんだん、向日葵が近づいてくる。もう少し。もう少し近づけば、くっきりと…。
「ああ、こっから先は覚えてないな」
向日葵が突然演奏を止めて、俺は目を開けた。