できる限りの事を、向日葵にしてあげるんだ。
「よし。じゃあ、早速練習してみよう」
俺が、向日葵の左に、改めて座って、指を鍵盤の上に置く。
「どこまでなら弾ける?」
「うーん。とりあえず、最初の二分音符ぐらいまで」
向日葵も、俺と同様に指を鍵盤の上に乗せる。
すごいな。一発聴いただけで、そこまで分かるなんて。
まだ向日葵の病気の事を知らなかったときは、いつか向日葵はすごいピアニストになるんじゃないかと思っていた。
なんだか、今でもなれそうな気がしてならない。
「日向君?」
向日葵が俺の名前を呼んで、はっと我に返った。
「あ、ああ、ごめん…。ちょっと考え事してた。えっと、最初は左からだよな」
俺は、バッグから楽譜を取り出すと、ゆっくりと演奏を始める。
最初は、左手がリズムをキープしながら、右手が主役になって曲を奏でる。
ダメだ。余計な気持ちが入って来てしまう。
もしも、自分が命のタイムリミットを知らされたら。
耐えられるわけない。
考えてみれば、俺はそのことについては何度も考えていたような気がする。
もしも自分が盲目になったら、もしも自分がコンクールで観客に陰口を叩かれたから、そして、もしも自分が命の期限を知っていたら。
でも、どれも耐えられないという結果にたどり着いた。
なら、なんで向日葵は…?