「中々、ロマンチックだろ?」
俺がいたずらっぽく向日葵に聞くと、向日葵は黙って頷いて、目を閉じた。
一応楽譜は見てきて、一通り練習もしてみた。
さほど難しいという訳ではないが、なにせ俺にとっても初めての連弾だ。難易度とはまた別の、難しさがある。
曲が終わっても、向日葵は目を閉じたままだ。
でも、口は笑っていたし、気に入ってはもらえただろうか。
「いい曲だね」
一言目の感想はそれだけだった。でも、俺は十分嬉しくて、安心から息を吐く。
「よかった。気にいってもらえて」
「うん。でも、やっぱり連弾って、やったことないし、難しいよね。それが心配だな」
どうやら、向日葵も俺と同じことを思っているらしい。
「大丈夫だよ。俺が、最大限に気を付けるから、向日葵は弾きたいように弾いて」
俺がそう伝えると、向日葵は照れるように顔を伏せた。
「ありがとう。でも、何か悪いな。そんな、何から何まで気を使わせちゃって」
「いいんだよ、別に。俺が、向日葵にこうやって恩を返したいだけだから」
すると、向日葵はまた、「ありがとう」と言って、笑った。
今まで数えきれないほど見てきた向日葵の笑顔が、なんだか今日は、もっと新鮮なものに見えた。
心臓が、ドキッと飛び跳ねる。