君のために勇気を



夏休みに入った、七月下旬。
 

俺は、向日葵と二人で、コンクールの打ち合わせをするために、ひまわり畑のピアノ部屋に向かっている。
 

あの後、向日葵のお母さんに、コンクールに出ることを話すと、涙を流しながら喜んでくれた。

やっぱり、自分の娘が勇気を出したことに、嬉しくなったんだろう。
 

俺の母さんと父さんにも、一応そのことは伝えておいた。

父さんは、「よくやった」と褒めてくれたし、母さんは無表情だったけど、「見に行くわね」とだけ言ってくれたことで、嬉しくなった。
 

先生にも、正式にコンクールに出ることを伝え、向日葵の事情も全て知っていることを話すと、安堵の表情になり、「頑張れよ」と、この前のよそよそしい態度とは真逆に、笑顔でそう言ってくれた。
 

向日葵とピアノの部屋に入る。

この前とは違い、空は雲一つない青空で、太陽が煌々と俺たちと、たくさんのひまわりを照らしていた。
 

「夏休みに入ると、この部屋も暑いね」
 

向日葵はそう言いながら、白杖を置いて、ピアノの椅子に座る。
 

「ホントだな。今年は暑くなるみたいだし、あんまり夏バテするなよ」
 

「しないよぉ。私、あんまり外に出ないし」
 

「それはそれで、不健康だけどな」
 

そう言って、また笑いあった。