俺は医者じゃない。向日葵の病気が治るかも、なんて気安く言えるわけがない。
 

だからって、こんなすべてを投げ捨てた向日葵に、俺は一体どんな言葉を言えば…。
 

『努力している間も、意外といろんなものが手に入るんだよね』
 
『確実に得はするよ』
 
『考え方を変えれば、いくらでも、可能性はあるってことだよ』
 

水田のセリフが蘇る。
 

そうだ。どんなに絶望的な状況だろうが、可能性はある。ゼロ、なんてことはないんだ。
 



「向日葵。俺は今、住んでる世界が違っても、向日葵の事が分かるように努力している。だから、向日葵も、努力してみたらどうだ?」
 

俺がぐっと決意をして、向日葵にそう言った。心なしか、自分の声を低く感じる。
 


「だから、もう意味ないんだよ。私の病気は、もうどう頑張ったって、治らないんだから…」
 



「生きる努力をしろって言ってるんじゃない!今、ここで生きている時間を、諦めるなって言ってるんだ。そうやって、『もうすぐ死ぬから』って言い訳して、いつまでも怖くて逃げ続けてさ。これでいいって、自分を偽り続けて生きてく方が、未練が残るに決まってるだろ?」
 


強気な言葉で言った。この前は、ここで向日葵に怒鳴られたが、今は何もしないで、じっと俺の話に、耳を傾けてくれた。