向日葵の言葉に、俺は「いいや」と言って、乱暴に自分の目を拭った。
 

「おかしくなんかない。俺も、同じだから。たった、三ヶ月しか経ってないのに、俺は向日葵の事を想うだけで、泣いたり笑ったりできるんだ」
 

俺は、そう言って、声を出して笑った。向日葵も、一緒に笑い始める。
 

久しぶりに、二人で笑いあった。

今まで当たり前だったのに、これはすごく幸せで、ありがたいことなんだ、と思うことが出来た。
 

笑い声がだんだんと収まる。
 

『コンクールに憧れはあるはずなのに、『出る?』って聞くと、絶対に『嫌だ』って答えるようになっちゃったの』
 

向日葵のお母さんの言葉が、頭の中に蘇った。
 

俺は、タイミングを見計らって、向日葵に質問をした。
 

「向日葵のお母さんも言ってたけどさ、向日葵はやっぱり、コンクールに憧れがあるのか?」
 

向日葵の余命は九ヶ月。それを知って、俺は分かったのだ。

どうして、向日葵のお母さんが、俺に向日葵の事を話したのか。
 

もちろん、俺たちに仲直りをする手助けをした、というのもあるが、向日葵のお母さんも、当然向日葵の余命が九ヶ月という事を知ってるはずだ。
 

ということは、たぶん向日葵のお母さんは、俺にお願いしたかったのだ。


「憧れがあるなら、やっぱり出てみないか?」