すべてを守りたい、純粋にそう思えた。
「何を言っても、私から離れない…?」
向日葵は、顔を足にうずくめたまま、俺に、か細い声で質問する。
「ああ。絶対に、離れない」
俺はそう言うと、向日葵の白い小指と、俺の少し日焼けして、ピアノで鍛えられた太い小指を、絡ませた。
「約束」
そう呟いて、絡ませた小指をほどく。
何を言われても構わない。
私は犯罪者、と言われても、俺はたぶん出頭を勧めて、向日葵が出所したら、また向日葵と一緒になる。
そんなことも想像できるくらい、俺の腹はもう決まっていた。
「何を言われても、俺は向日葵から離れない。な?」
俺がそう言っても、向日葵は顔を上げない。俺は、ひたすら待った。
何も言わず、黙ったまま、向日葵の決心がつくまで、静かに見守った。
やがて、向日葵が大きく息を吸うと、顔を上げた。
涙で顔はぐしゃぐしゃになって、目は充血していた。
「…わ、私は…私は…」
それだけ向日葵は言うと、堪えていたように、大粒の涙が瞳から零れ落ちる。
でも、さっきのすすり泣きとは違って、大声とまではいかないけど、声を出して泣き始めた。
外の雨も、向日葵の泣き声に合わせるように、より強く、より多く降り出す。
それでも、俺は向日葵の泣き姿を、ひたすら見つめて、「大丈夫。大丈夫」と、優しく言って慰め続けた。