向日葵の悲痛な叫び声が、一瞬雨の音でさえも、簡単に打ち消した。
 

君が、何を言っているのか分からない。俺は、どうすることもできない。
 

向日葵のすすり泣く姿を、俺はただ茫然と、見つめることしかできないのだ。

そう思ったら、自分で自分が、猛烈に情けなくなる。
 

『情けないわね』
 
『あなたの向日葵さんに対する気持ちは、そんなにちっぽけものだったの?』
 




…違う。
 

『俺は見つめることしかできない』、なんて軽々しく言えるほど、向日葵に対する想いは、ちっぽけなものなんかじゃない。
 

俺は、今俺にしかできないことが、ちゃんとあるんだ。
 

俺は、しゃがんで向日葵を見上げた。

向日葵は目が見えないから分かんないと思うけど、それでもこうした方が、相手ときちんと目を合わせ、きちんと寄り添えるんだ。
 

「向日葵、俺は、向日葵のおかげで、ここまで成長できたんだ。向日葵がいなかったら、俺はここまでの人間になんてなっていない。全部、向日葵のおかげなんだ」
 

向日葵のすすり泣きが、ピタリと止まった。
 

「俺は、だれよりも向日葵の事を想ってる。向日葵は、俺に色んなことをしてくれたけど、俺はまだ何にも恩返しできていない。だから、俺は少しでも、向日葵の力になりたい」
 

こんなにも、俺が誰かのために、行動したことがあっただろうか?
 

向日葵の姿、向日葵の演奏、向日葵の笑顔。