「向日葵、本当にすまなかった。向日葵のお母さんに聞かされたんだ。向日葵、昔コンクールに出たんだけど、そこで陰口を聞いちゃって、コンクールに出られなくなったって。なのに、俺、向日葵の心をかき乱すように、自分の都合で怒鳴って…。本当にごめん!」
 

無我夢中だった。今までと全く同じように、自分の言葉を吐き出すだけだったし、こうやって言っても、結局今までだって許してもらえなかった。

でも、それでも俺は、やっぱり自分の気持ちをぶつけるのが、一番いいと思ったのだ。
 

向日葵は、何も答えない。曇り空だった空から、とうとう雨が降り出し、やがてそれが激しくなる。

雨が、このピアノ部屋を強く打ちつける音が、部屋の中に響いた。
 

やっぱり、許してもらえないか。いや、だからってもう、絶対にめげたりしない。

何百回、何千回、何万回だって謝る。
 

俺は、ぎゅっと自分の目を瞑って、何を言われても、大丈夫なように覚悟を決めた。
 

「…そんなさ、ちっぽけな事で…」
 

向日葵が、この沈黙を破った。小さな、悲しそうで、でもいつもみたいにどこか明るい、そんな声だった。
 

「そんなちっぽけな事で、私が日向君の事を嫌いになるほど、私の日向君に対する想いは、薄いものだと思う?」
 

向日葵が顔を上げた。久しぶりに、向日葵は笑っていた。でも、いつもの無邪気な笑い顔ではなかった。