君の『悲しきワルツ』からは、どうしてこんなにも悲壮感が漂っているんだ?


俺は、向日葵じゃない。だから、ピアノの音を聞いたところで、演奏者の感情なんて分かるはずもないんだ。


じゃあ、なんで俺は今、君の感情が分かる?
 

向日葵だから。向日葵だから、俺は分かるのか?何よりも、俺にとって大きい存在である、向日葵だから、俺は分かるのか?
 

ピアノの部屋の前に立つ。

ガラスの窓から透けて見えるのは、一切の笑みを浮かべず、体を左右に動かしながら、目を瞑って曲を奏でる向日葵だった。
 

サビに入る。より一層強くなったピアノの音。

悲哀を誘うこの音程が、向日葵の演奏姿を、悲しく美しく見せていた。
 

俺は、演奏が終わったと同時に、ドアを開けた。
 

カチャ
 

ドアが開く音と同時に、向日葵の肩がビクッと跳ね上がり、慌てて俺に顔を向けた。
 

「だ、だれ?」
 

向日葵の声は震えている。


ちゃんとこっちは向いているはずなのに、やっぱり向日葵は盲目なんだと、とっくに分かりきったことを、改めて悲しく思ってしまう。
 

「日向だよ」
 
「ひ、なた、くん?」
 

その途端、向日葵はものすごい勢いで椅子から立ち上がった。
 

「なんでここにいるの!もう、声も、聞きたくないって、そう言ったのに…」
 

最初は叫んでいたのに、だんだんと声が小さくなる。向日葵が、崩れ落ちるように、ピアノの椅子に座った。
 

「もう、嫌だ…」
 

向日葵のうなだれた態度に、俺はそれ以上耐え切れなくなり、向日葵の真ん前まで来ると、自分の気持ちを素直に吐き出した。