ひまわり畑に着くと、俺は真っ先にピアノの部屋に向かった。
向日葵の事、この前よりかはちゃんと理解している。
今度は、ちゃんと向日葵の事を、すべて理解して支えることが出来るはずだ。
それに、向日葵のお母さんも言っていた。
『向日葵は、あなたの事を嫌ってはないと思うの』
妙に、真実味のある言葉だった。
いや、俺がそう思いたいだけなのかもしれない。でも、もしそうだとしたら、なんで向日葵は俺の事を嫌ったのか。
俺が怒鳴ったとき、向日葵が怒鳴り返した。あれから、素直に謝れず、ずるずるとこんな関係になってしまった、とか。
いいや、そんなはずはない。そもそも向日葵はあんなに人の事を拒んだりしない、罵倒したりしない。
もしも人に悪いと思ったら、素直に謝ることができる。それが向日葵なんだ。
そんなことは、俺だってよく知っている。
じゃあ、なんなんだ?なんで、俺をそこまでして、突き放すのだろうか…?
ピアノ部屋に近づくと、まだ距離はあるのに、ピアノの音がしっかりと聞こえてきた。
ヨハン・ユリウス・クリスチャン・シベリウス作曲、アルヴィド・ヤルネフェルトの戯曲。クオレマから、『悲しきワルツ』
向日葵、なぜ君はこの曲を選曲したんだ?悲しいのか?ならば、何に対して悲しい?
今、君がピアノを弾いてるこの時、俺は、君の心の片隅にでも、存在しているのか?
俺は、ピアノの部屋に向かって続く道を、早足で歩く。