自分でも分かってる。分かってるけど、分かったうえで、俺は今、向日葵の家へ走っているんだ。
どんなに息が荒くなっても、俺は痛くなった足を止めない。
向日葵の家の前に着いた。俺は、ぜえぜえと息をつくと、自分の体を落ち着かせて、チャイムを押した。
しっかりと、チャイムの前に立つ。しかし、中々応答がない。
小鳥の、朝のさえずりだけが、虚しく住宅街に響くだけだ。
とうとう、無視されるようになってしまったか。そう思っていると、機械越しの声が聞こえてきた。
『…日向、くん、よ、ね?』
か細い声。日向君、と言うから向日葵かと思ったが、声はもっと大人っぽい、向日葵のお母さんの声だった。
『何回来たって、同じよ』
向日葵と同じ、冷徹な声。でも、俺の心はそんなんじゃ、もうめげない。自信があった。
「どうであれ、俺は向日葵さんと話がしたいんです。ちゃんと、また一緒に笑い合いたいんです」
俺は叫ばない。しっかりと、自分でもわかるくらい、力強く野太い声で応答する。
機械越しにいる向日葵のお母さんを、瞬きもせず真っすぐ見つめた。
『向日葵は、今日はここにいないわ』
「え?いないって…」
「今日は、出かけてるの」
頭をがっくりと落とす。思わずため息をついた。
そんな、よりによって向日葵がいないなんて…。やっぱり、俺は神様からも見捨てられたのだろうか。