「ねえ、知ってる?今日、めちゃめちゃピアノがうまい子が、学校に来るって話」
「知ってる!最近、噂になってるよね」
俺の少し前を歩く、桜木高校の制服を着た女子が、楽しそうに話している。
なんだ、もうこんなに広がってるのか。
思わず、苦笑いがこぼれる。
俺は、この学校に『音楽』推薦で、入ったのだ。
ピアノ専門の受験を受けて、合格した。
自分で言うのもなんだが、はっきり言ってピアノの実力はそれなりにあると思う。
だいたいのコンクールでは優勝しているし、一昨年も中学の全国大会で、中学部金賞を受賞した。
ピアノ推薦で入っても、問題はないくらいの経歴を備えてはいるのだ。
とはいっても、別にこの肩書きを誇らしく思ったことなんて、一度もない。
むしろ、こんな肩書きを捨ててしまったら、どんなに幸せなのだろうと思う。