『向日葵の事は、もう忘れてちょうだい。お願いだから』
それだけ言うと、チャイムは切れてしまった。何度も呼びかけるが、それでも応答はない。
これ以上チャイムを押すこともできず、俺はそのまま家に帰ることしかできなかった。
足が重い。カバンも重い。すべてが重く感じる。
そんな、母親にまで拒絶されたら、さすがに俺の決心もしぼむ。
もう向日葵は、俺の事を嫌ってるんだ。向日葵のお母さんも、嫌ってるんだ。
だったら、もうどうにもならないじゃないか。
諦めるしかない。向日葵のお母さんが言ってたように、もう向日葵の事は、忘れよう。
そんな風に、俺に訴えかける自分もいる。そうしてしまったら、どんなに楽か。
でも、向日葵と二度と話せない、笑い合えない。そう思ったら、俺は絶望の淵に立たされたような気分になる。
家に着くと、俺はドアを開けた。
「おかえりなさい」
母さんの声が聞こえてきたが、俺は無言で二階に上がった。
自分の部屋に入って、思いっきりベッドにダイブする。
目を瞑るだけで、俺を拒絶してきたときの、向日葵の声と表情が蘇る。
忘れられるわけがない。絶対に忘れられない。
俺をここまで変えたのも、俺の心がこんなに誰かの事でいっぱいになった相手も、紛れもなく向日葵なんだ。
そんな簡単に、忘れられるわけがないだろう。
「元気ないわね。最近ずっと」