俺は、カバンを持って立ち上がると、音楽室に向かって歩き出した。
謝ろう。謝って、今度こそ、優しく、向日葵の悩みに、ゆっくりと寄り添おう。
音楽室のドア。何の躊躇もなく、ガラッと開けてたけど、今は違う。
初めて向日葵と出会ったときのように、ちょっとドキドキしていた。
あのころと違うのは、ネガティブなドキドキが、俺の心の中に充満している、ということだ。
俺は、音楽室のドアノブに手をかけると、思いっきり左に引いた。
「ようやく来た。待ってたよ、ずっと」
息が止まりそうになった。俺がドアを開けた瞬間、目の前に向日葵が立っていたから。
『待ってたよ』
それは、肯定の意味なのだろうか?それとも…。
「私ね、日向君に伝えたいことがあるの」
「待って。先に、俺に言わせてくれ」
何を言われるのか怖かった。俺の決心が変わらないうちに、すべて言ってしまおう、そう思った。
俺は、目が見えないはずの向日葵に、改まって頭を下げた。
「ごめん!あんなひどいこと言っちゃって!」
思いっきり叫ぶ。頭は下げているから、向日葵の様子はうかがえないが、それでも俺は謝罪の言葉を、一気に言った。
「俺、あの時思わず向日葵に突き放されたような気がして、怒鳴っちゃったんだ。でも、向日葵の気持ちも何にも理解してなくて…。ほんと、ごめん!」
何を言われるのか分からなくて、俺は目をぎゅっと閉じた。