黒西の声が、だんだん小さくなっていく。
どうしたんだろう、と黒西の方を見ると、黒西は両手を強く握りしめていた。
いくら待っても、黒西の言葉が返ってこない。
黒西は、目を瞑ると、強く握りしめていた両手が、小刻みに震え始めていた。
「お、おい、どう…」
「空川はさ、また、一緒に向日葵さんと、ピアノ弾きたいって思ってる?一緒にセッションするのは、誰でもなく、向日葵さんだけって、そう思ってる?」
黒西が静かに聞いてきた。一体どんな意図があるのかは知らないが、俺は迷わず頷いた。
「当たり前だろ。代えなんかいない。向日葵じゃなきゃダメだ」
黒西は、何も言わずに頭を下げた。
『向日葵じゃなきゃダメだ』
その言葉が、俺の何かを動かした。
俺の口は歯止めを失ったように、心の中の言葉をそのまま吐き出していた。
「向日葵はさ、ピアノを弾くと、夢のような世界を奏でれるって言ってたんだ。だから、楽しくピアノが弾けるんだって。俺も、向日葵と一緒にいる時が、一番楽しくピアノが弾けるんだ。だから、他の誰かじゃなく、向日葵と一緒に、世界を奏でたい。ピアノを弾きたい。そう思ってる」
我ながら、向日葵の事を想い過ぎてるだろ、と思った。でも、この気持ちを黒西に伝えたことに、後悔はない。
「…別にそこまで聞いたわけじゃないのに…」