でも違う。向日葵は、そんな事思っていない…。

俺の事を、信用できない、盲目だからって白い目で見る、一般の人と変わらない人間、そんな風に見ていたんだ…。
 

「…ふざけるなよ。向日葵、俺の事嫌いなのか?何にも信用できない、分かり合えない、そんな風にしか見ていなかったのか?」
 


俺の震える声に、向日葵は慌てて首を横に振った。
 


「違うよ!そんなんじゃ…」
 

「じゃあ、なんで何にも言ってくれないんだよ!俺の事、信用してないからだろ!何にも話したくないから、そうなんだろ!?」
 














「うるさい!」
 

俺の一気に吐き出した言葉に、重なって聞こえた、向日葵の怒号。


全ての体の部位が、突如動かなくなった。目の前が、真っ暗になりそうになる。
 

獣が咆哮するような、切りつけるような口調。これまで、向日葵のこんな怒鳴り声なんて、聞いたことがなかった。


肩を上げ下げして、顔を真っ赤にしている向日葵からは、激昂している様子が、手に取るように分かる。
 

思わず、俺は言葉を失った。何も言わずに、呆然といきり立つ向日葵を見ることしか、出来なかった。
 

どのくらい経ったのか、分からない。向日葵は、素早くカバンと白杖を手に持つと、
 

「帰る」


とだけ言った。
 

向日葵は俺の横を足早にすり抜けて行く。音楽室のドアを、開け閉めする音だけが、俺の耳に聞こえる。
 


向日葵の、芳香な髪の匂いだけが、虚しく音楽室に残っていた。