お互い、何も喋らない。耳が痛くなるような静けさに、向日葵がはっと顔を上げて、慌てて微笑んだ。
「あ、ごめんね。いや、たださ、その…。ほら、私たちは住んでる世界が違うんだよ。日向君は、コンクールのためにピアノを弾く。私は、ただの趣味。住んでる世界が違うから、私たちは分かり合えないの。だから、ほっといて。ね?」
『分かり合えない』『ほっといて』
俺は、手を、強く握りしめた。あまりの強さに、爪が手に食い込む。
なんなんだ…?なんで、そんな冷たい言葉で、俺を突き放すんだ…?
向日葵だけじゃない。みんな、俺に何かを隠そうとしてる。皆で、俺を突き放しているんだ。
ひまわり畑で、向日葵の過去を知った時。
そこのピアノ部屋で、向日葵が俺に勇気をくれた時。
俺の両親に、ちゃんと向日葵が俺の気持ちを言ってくれた時。
そして、一緒に笑いあった、何気ない時。
全部が、俺にとっては宝物だ。
今も、そうだ。
向日葵とはもう友達。いいや、友達よりも、もっと強い関係。
強い絆で結ばれた、同志だと思ってたのに。