「いやいや、だから本当に大丈夫だってば。日向君には、関係のないことだし」
そこで向日葵は、はっと自分の手を塞いだ。
『日向君には、関係のないこと』
やっぱり…。やっぱり、向日葵には悩みがあるんだ。それも、俺に言えない、なにか重大な悩みが。
「…こ、この話は、終わりにしよう。ね?」
下手くそすぎる誤魔化し方。伊藤と同じレベルだ。
でも、違う。もっと、笑い飛ばせないような、なにか大きなものを隠しているような気がする。
過去の俺と、今の向日葵は、ぴったりと重ねれるような気がしてならなかった。
「…うん。終わりにしよう」
そう、答えるしかなかった。こんなに知りたがってる俺がいるのに、それとおんなじくらい、何も知りたくない、と向日葵の悩みを、恐怖から拒絶する自分もいた。
「ささ、久しぶりになにか連弾しようよ。あ、またかえるの歌を連弾してみない?ね、ね?」
向日葵の震えた声がいたたまれなくなり、俺は「ああ」と、できるだけ明るく答えると、向日葵の横に座った。
「じゃあ、今日は私が右パートね」
向日葵が、わざとらしく右手をひらひらさせる。俺も、左手を鍵盤の上に置いた。
「じゃあ。せーの!」
かえるの歌が流れる。
出来るだけ俺は、普通に弾いてるつもりなのに、なんとなく重苦しい音に聞こえるのは、俺の気のせいだと思いたい。